実直で丁寧で、そして濃厚なおざえりノベル


あまりにも評判がいいものだから20選前に片づけておこうとしたんだけど……こりゃすごいわ、うん。

まず動画としての質が高い。
独特の画面構成、的確な文字送りのスピード、凝った演出の数々……よくもまぁ処女作からここまでやるなぁという感じ。
カーステレオという設定下とはいえ、ノベマスのBGMに歌詞つきの曲を使う点についてはどうかなーと思っていたんだけど、
4話ではそれを活かした素敵な演出が見れたし、6話中盤で絵理のあの歌が流れたときは本気で震えた。
だから結局、この動画においてはこれで正解だったんだと思います。

言葉選びのセンスが凄い。
アイドルとプロデューサーを車とその運転手に例えたりとか、
絵理の語る後部座席と助手席の違いについての話とか、表現がいちいちすげぇツボなんですよね。
後はキャラクターを壊さないよう大事にしたうえで面白い台詞を持って来たり、
巧みに会話を転がしたりする点も凄かったです。
基本1対1の会話ってスタイルの動画なのに、全く飽きないしずっと見ていたいとすら感じるのはここが長けているからこそ。

そして何といっても、キャラクター描写が上手い。
一人一人がしっかりと地に足がついている感じで実に好感が持てます。
メインの尾崎さんと絵理の捉え方は特に素晴らしいですね。
尾崎さんがよくある「無能で豆腐メンタル」的な安易な描写をなされていない点ももちろんですが、
これはかならずしもそういう作品ばかりではないし、僕もある程度はその本質を見極められていると自負しています。
しかし、絵理の方に関してはとにかく感心しっぱなしでした。
というのも、絵理ってかなり奥の方が曇っているキャラクターではないかと思うんですよね。
ノベマスにおける絵理はスペックが高くて、頭がよくて、空気も読めて上手く会話を転がせる、使いやすいキャラとして重宝されがちなイメージがあります。
でもそれ故に底が浅くなっているような気もしていたり。
たまに「絵理の語尾に疑問符つけすぎ」みたいな苦言を目にすることがありますが、
あれも彼女のキャラクターをイマイチ掴めていない人が多いからなんじゃないかなー。

そんな中、この動画における絵理は完璧に近いほど絵理そのもので、いろんな2次創作の影響でやや曇っていた僕の絵理像を晴らしてくれたやもしれません。
「いろんな才能があって、他人にはできない色んなことが出来る。
 でもその代わり、他人にできる当たり前の事ができなかったりする」

絵理ってそういう子だよなぁと、思い知らされたというか、思い出させてくれたというか……
会話のキャッチボールが下手だったり、恋という感情の理解に苦しんだり、そうした描写の一つ一つが本当に素晴らしかったです。

そしてそんな丁寧に作り上げられた尾崎と絵理、2人の関係がこれまた素敵。
“あの”絵理Aランクエンド後の未来の一つの形として、大変よいものを見せてもらいました。
僕は所謂「百合」が苦手な人間なので視聴中に少し不安を感じたこともあったんだけど、
たぶんそういう結末をシトロエンPが描くことは無いだろうと思っていたし、
例えそうなったとしても、この2人の間にあるものの本質はそういうものじゃないだろうと確信していたので大丈夫でした。
後日談一作目のレベルまでいっても余裕で、安心して見られたのには自分でもビックリですw

というかおざえりって百合的関係としてギャグ的に扱ったものが多かったので、これを見られて本当によかったと思う。
例えこの先そういう動画ばかりであっても、このシリーズさえあれば僕はおざえりを好きでいられる。
そういう点では、ゆきまこにおけるメイPの「箒星」と似たような位置づけになるのかもしれません。

おざえり以外の会話シーンもよかったですね。
絵理とサイネリア、絵理と夢子、尾崎と小鳥……などなどどれも楽しく見応えがあったし、
特に尾崎とサイネリアの会話を綺麗な形であそこまで描けるノベマスはそうそうない。
定番のギャグ、くらいにしか思っていなかったコンビですが、視聴後は物凄く好きになりました。
そりゃあ2人とも水谷絵理に人生を変えられた者同士なんだから、会話にも深みが出るよなぁと今更のように気づかされたりw

アイドルマスターDS」へのとてつもない熱を感じる名作でした。
これを今日一日で一気見したのは、なんだかすごく贅沢なことをした気分w
DS、特に絵理のシナリオが好きな人には是非見てもらいたいなー。