声無きドラマが交錯するステージ


さて、赤ペンP、つばめPときたからにはドドリアPについても何か書いておきたいところなのですが……。
氏のVRLステージの感想を述べるとすれば、「やはり『DIAMOND』は大傑作であった」という点は自信を持って断言できるものの、
肝心の新作であるこの「VESPRIA」がなんというか、難解なのである。

春香・千早・真美のユニットに敗れた竜宮小町は、社長から「2年目」の延長期間をもらう。
一方765プロ内では、美希・響・貴音のユニット(仮に「フェアリー」と呼ぶことにします)がデビューを迎えていた。
今度こそIA大賞を掴まんとする竜宮と、それを追いかけるフェアリー。
2つのユニットは何度もフェスでぶつかることになる。
竜宮はフェアリーを度々退けていたが、4度目の戦いでついに敗北を喫す。
そして迎えた一大フェス対決、VESPERIA。
フェアリーは「ビヨンドザスターズ」に「オーバーマスター」。
竜宮小町は「プリンセスメロディ」に「七彩ボタン」。宿命の衣装と曲によるバトルが繰り広げられる。
……そして、選ばれたのは竜宮小町であった

といったような表面的なストーリーは、むしろかなり分かりやすく表現されています。
しかしそこから一歩踏み込んで、各人の抱く感情や、この戦いがそれぞれに何をもたらしたのかといったことを考えると、
浮かんでくるのは自分の妄想の域を出ないものであり、それが正しいという確信が持てないのです。

ではなぜ「難解」なのか? 
身も蓋もないような結論ですが、おそらくそれは「歌詞」が無いからなのだと思う。
同作者の作品だと「FIRE BALL」の方が映像表現的には難解だと思うのですが、
あちらは楽曲「妖精」の歌詞をなぞりながら見ていくと、あの物語が如月千早の何を表現しようとしていたのかがはっきり見て取れます。
今作と同じくゲームの後の世界を描いた「DIAMOND」にしても、歌詞が伊織の意志を燦然と輝かせていた。
しかし、VESPERIAの楽曲「sweet gravity」には歌詞が無い。
だから視聴者は、アイドルたちの感情面にまで踏み込むための大きな手がかりを持ち得ないというわけです。
そしてそれ故にこの動画は、僕にとって「難解」なのです。

歌詞が無い、という状況による話がもう一つ。
この作品を見終えたとき、僕が最初に考えたのは「これはいったい誰の物語なのか」ということでした。
生放送時の動画が流れる前ふりは律子だった。サムネに選ばれたのも律子だった。
とするとこれは、律子の物語であると解するのが適当なのかもしれません。
ただ、「妖精」が千早の心に、「DIAMOND」が伊織の心に寄り添ったのとは違って、
どうしても僕にはこの動画が、この楽曲が、律子一人の心にクローズアップしたものとは思えなかったのです。
竜宮小町のリーダーとして一人何かを思い、フェスで見事なパフォーマンスを見せる伊織。
事務所の仲間たちから大きく後れをとったデビューに無垢なる喜びを見せ、いつの日かの夜の遊園地ではその表情を悟らせぬ美希。
彼女たちのドラマも、この物語を構成する重大な要素であるに違いない。
さらに、ますます僕を悩ませるのが、ドドリアPがリスペクト先として挙げた動画群。
「sweetgravity」は選曲的な意味でもまあ分かるとして、問題は他のストーリーPV3作です。



中にはVESPERIAと同居するのは難しそうなものもあるので、これらがそのままVESPERIAの中に取り込まれているというわけではないでしょう。
しかし何らかの形で、VESPRIAの中にこれらの物語が生きずいているという可能性は考えられます。
そうすると、律子や美希のドラマはさらに深く、複雑になっていく。
さらにVESPERIAが「DIAMOND」と同じ世界線上での物語だとしたら、あのあまりにも気高き伊織のもが、この中にも現れていくことになります。
ここが声なき世界である故に、複数人の、幾重にも重なりあったドラマが交錯して「VESPERIA」を作り上げているのではないかと思うのです。
律子や美希や伊織、それに亜美やあずさや響や貴音、もしかしたら他の人物たちのものも……。

それにしても、この点について視聴者がどれほどの意識を向けていたのかは知りませんが、
「デビュー時期を一年ずらす」という発想をアイマス2ストーリーPVに持ち込んだのは個人的にかなりの衝撃でした。
「竜宮とフェアリーのフェス対決」という構成自体はいつか絶対くるだろうなーと予想していたのですが、
まさかそれが「2年目の竜宮」vs「一年遅れてデビューしたフェアリー」になるとは……いやはや完全に予想外であるw

VESPERIAにおける勝者は竜宮小町でした。
このフェスの勝敗がユニットの明暗をどれほど分けるものだったかは想像に任せるしかありませんが、
例えばこれが「DIAMOND」と同一世界線上の物語だったとすると、この先IA大賞の栄冠は彼女たちの手に渡ります。
そうすると、フェアリーの3人はどうなってしまうのか?
竜宮には破れどもIAノミネート段階までは進めていたかもしれないし、
そうでなくとも竜宮と同じように、彼女たちもまた2年目のチャンスを与えられる可能性はあります。
しかしどちらにせよフェアリーもまた、もう一年後の世界で再びIA大賞に向けての戦いを繰り広げなければいけません。
そしてもしかしたらその中で新しい仲間のユニット、例えば残っているやよい・雪歩・真などが立ち塞がってくるかもしれないのです。
すると勝利と敗北の、栄光と挫折の歴史はまたまた繰り返されることになる……。

「アイドル」
それは女の子達の永遠の憧れ
だがアイドルの頂点に立てるのはただ、1組……

この謳い文句自体は、無印アイマスのころから存在していました。
しかし、IA大賞という明確な頂点の形が生み出され、
それを同じ事務所のユニット同士で奪い合い、結果が出なければ解散もあり得るアイマス2の世界。
それはもしかしたら、無印の頃以上に過酷なものなのかもしれませんね。


VESPERIAは見守る律子は、何故涙を流したのか。
この物語は難解だから、その真意やドドリアPの意図をはっきりつかめているとは思えません。
でもこの涙は、ただリーダー伊織の気高き姿や、同じく奮闘する亜美とあずさ、そして竜宮の勝利。未来への希望。
そうした、自分のプロデュースするユニットのためだけに流れた涙では無かったのではないでしょうか。
そこに交錯する様々なドラマと、アイマス2という世界のことを考えているうちに、僕にはどうしてもそう思えてなりませんでした。