『罪の果実』は口にしないで…


このシリーズの感想はポエムチックに紡がなければいけない、みたいな空気を感じるけど考えるのしんどいから通常営業で。
ハリアー短編シリーズの、同じパターンの話を毎回微妙に変化を加えながら繰り返す手法が好きでして。
このポエム会話シリーズも常識人的な感性を持つ子を巻き込んだり、
理解したうえであえてぶち壊してくるクラッシャーを乱入させたりと、
毎度新しいアイデアを取り入れて楽しませてくれましたが、
その全てが結集した今回のエピソードはこれぞ傑作回と呼ぶべき盛り上がりでした。
絵里、雪歩、麗華、りん、翔太。
サイネリア”と“ティンカーベル先輩”、鈴木彩音の2つの顔と関わりのある人物が一斉登場し、
何とか相手の知らない正体を隠し通そうとてんやわんや。
そして最後には白雪と先輩のポエム会話に帰結するという、
まさにポエム会話シリーズの最終回といってもいいような展開でしたね。
にしても、サイネリアのような脇役ですらこんだけ積み上げてきたエピソードや人間関係があるんだから長寿連載シリーズというのは凄いもんだ。

ティンカーベル先輩」というキャラクターは、あまりに自分の持つサイネリアのイメージとかけ離れていて、
突拍子も無く湧いてきた、完全に元人格と切断された存在という風に今まで捉えていた気がします。
しかし今回はサイネリアの視点で物語が進むうえ、
二つの人格がごっちゃに混ざり合うことで、どんどん先輩の中にサイネリアの素の部分が見え隠れするようになって、
やっぱりこれもサイネリア、というか鈴木彩音なんだなあと実感しました。
そんな状態での雪歩、いや白雪との会話がまたグッとくるのよね。
明らかに様子も格好もおかしな先輩を見ても、「どうしたんですか?」とは尋ねない。そして代わりに「声」を紡ぐ。
互いの素性も生きる世界も知らない2人の間を結ぶのはいつだってただ一つ、このポエム会話だけだったから。
そしてそれが2人の生きる楽しみの一つであり支えになっているという。
ちょっぴりどころじゃないくらい奇妙だけど、でもこういう友情の形も素敵だよねと。
本来は草を生やすのが正しい反応かもしれないけれど、僕は2人の会話を見ながら真面目に感動してましたわ。
そういう意味では、最後のオチは予定調和とはいえちょっと微妙だったかな……w

どっちかというとこれまで諭され支えられる側な感じだった雪歩の行動がそれを体現するというのがまたいいのよねー。
今まで雲の上の存在のような、もしかしたら天使だか妖精だかなんじゃと思っていた先輩が、
実は自分と同じように俗世に塗れ、悩みも苦しみも秘密もある普通の人間だと雪歩は知ってしまったわけだけど、
でも「罪の果実」を口にすること無く、これからもこの距離感のままでポエム会話を続けていくのでしょう。
雪歩や絵里に正体がバレちゃうのも面白いかなーなんて思ってたけど、どう考えてもこの終わり方の方が美しいよね。流石ですわ。
手描き短編の中でもかなりの人気シリーズだし、もしかしたら今後もさらなる発展があるかもしれないけれど、
あまりにも今回で綺麗にまとめすぎたもんだから、これ以上どう進めたもんだか僕には想像つかないや。