「GIANT KILLING」30巻のプロスポーツドラマが素晴らしい

GIANT KILLING(30) (モーニング KC)

GIANT KILLING(30) (モーニング KC)

ジャイキリ30巻のエピソードが非常に素晴らしかったのでちょっと感想を。
(※ネタバレ含みます)

ジャイキリが好きな理由の一つとして、プロスポーツが舞台故の魅力」というものがありまして。
もちろん王道部活ものの青春全開っぷりもそれはそれで素敵なんですが、
職業として生活のためにスポーツに打ち込む大の男たちが、それぞれ年齢や立場に合わせていろんなキャリアプランを思い描きながらも一つのチームとして戦うというのもまた熱いもので。
この作品の場合はサッカークラブものとして選手だけじゃなく監督やコーチ*1・スタッフ・スポンサー・サポーター・記者etcいろんな立場にスポットが当たっているから、その思いを乗せて戦う選手たちにより感情移入しちゃうのよね。
トーナメントよりも予定調和的勝利が少ないリーグ戦の特色も相まって、「主人公たちを応援したくなるスポーツ漫画」としては随一の作品ではないかと思っています。

で、最新刊のエピソードですが。
上り調子で来ていたチームの「微妙な違和感」だとか、「意識のズレ」だとか、そういう何とも難しい状況に面して、達海が伝えたかったのが「好きなことやって生活できる幸せ」だっていうのがなるほどなーと。
もちろん全てのスポーツ選手が担当競技を愛しているとは限りませんが、多くの人がその思いをきっかけにそこまでたどり着くわけで。
それを追求して生きていける幸せ。
一方でその寿命は他の職業よりもずっと短く、いつ終わりが訪れるか分からない現実。
「だからこそ、現役でいられるうちに……」という、サッカーに限らず全てのプロスポーツに通じるそのメッセージは、ファンとして見ているだけの自分の心にも響いてくる。
同時に、普段飄々としている達海が体を張ってボロボロになりながら伝えようとするのがまたズルいわけで。
活き活きと笑顔でプレイしていたのがだんだん曇っていって、フラフラになって無様な姿を晒しながら、それでも立ちあがって懸命に戦い抜いて……。
現役時代のファンだった山井記者や有里の涙する姿に、こっちまでもらい泣きしちゃいました。

その後の引退宣言からの独白もこれまた素晴らしかった。
ETUの星が自分のチームの練習場でひっそりと、少数のファンやスタッフ、そして選手たちに見守られて……ってシチュエーションが何とも切なく、
「不協和音のチームを思って出ていったら、すぐに怪我して再起不能に」なんて悲壮なエピソードのときですらわりといつもの調子だった達海が、もっとプレイしたかった・上に行ってみたかったと素の気持ちを漏らすのもグッと来た。
彼も監督である前に、未だ一人のフットボーラ−だったんだということに気づかされて。
どんな目で選手たちを見ていたのだろうか、そこには嫉妬や羨望、もどかしさなんてものもあったんだろうなとか考えると胸が締め付けられるような思いでした。
それにいま監督であり、メタ的には主人公である達海に「フットボールの主役は選手だ」って言わせるかーというのも。

後は、達海に引導を渡したのが彼の後継者たる椿だというのもまた美しいよね。
達海と同じように、サッカーを純粋に楽しんで無垢に上を目指す椿の姿はとても爽やかで、椿が達海からボールを奪うシーンは選手生命半ばで倒れた達海からのバトンが受け継がれた瞬間のようでした。
椿といえば代表選出時の、離れ離れになった旧友たちが椿の活躍を媒介に繋がっているっていうエピソードも凄くよかったのよねえ。今回のに次ぐプロサッカーの素敵さを実感させてくれるお話だったなあ。

大阪戦以降のジャイキリは原作者が降板した(?)関係もあって、マンネリ化してるだのグダグダになってるだのよく言われてて、
確かにまあそういう意見が出てくるのも分からなくもないんですが、
それ以後も素敵なエピソードはいっぱい転がってるし、何よりETUを応援したくなる気持ちはずっとブレてないので、僕の中の評価が揺らぐことはまだ無いです。
でも全体的な課題発生→打破の展開で今回以上のカードを切るのは難しそうだから、
流石にこの後はETUが完全にまとまりながらラストスパートで駆けあがっていく感じにしてほしいかなw
今回の珠玉のエピソードを経て、選手たちがどう変わっていき、どう戦うのか。次巻以降の展開も楽しみでなりません。

*1:というか監督が主役なんですけどねw