待望のタクシュー脚本・完全新作ながらも…。 「大逆転裁判」感想

「過去の人気キャラに頼らず登場人物を一新すれば…」
「もう一度タクシューにチャンスをあげれば…」

"4"で盛大にズッコケ、スピンオフで延命を測ったりと遠回りを始めた逆転裁判シリーズを見ている間、ずっとその2つの思いが頭の中を渦巻いていました。
そして二年前、"5"が賛否両論の出来ながらも何とか4の尻拭いを果たし、そろそろ一つ目の願いが叶うチャンスが来たのでは…と思い始めていた頃。
飛び込んできた、「大逆転裁判」の発表。
舞台は明治時代、キャラクターも世界観も一新。
そして、ディレクター・シナリオは巧舟
なんと2つ目の希望まで同時にかなってしまったわけです。

正直言うと、過去の記事でも書いたように、4でタクシューがやらかした後始末を何だかんだやり遂げた検事スタッフに感謝しきりで、
「よくやってくれた! 次はもう余計なしがらみに囚われずもっといいものを作ってくれ!」と感じていたので、
ここで一番いいところをタクシューがかっさらっていくのもどうなんだろう……とか思ったりもしたけど、それ以上にやっぱりめちゃくちゃ嬉しいしワクワクした。

何といっても、墓まで持っていきたいほど熱中した1〜3を作り上げたのはこの人なわけだし、
4でやらかしとはいえ、その後製作したゴーストトリックもまたADV史に残る傑作で、才能が錆び付いていないことを証明していた。
それに4には「成歩堂を出す」「裁判員制度を取り入れる」という条件を上層部から出されたという裏話があり、
実際それがシナリオの出来を歪める一因になってたように感じていたから、
制約をとっぱらった上でもっかいリベンジの機会を与えて欲しいって思いが強かったのです。

そんなこんなで、待ちに待った待望の新作だった大逆転裁判ですが……。
結論から言うと、期待を裏切られるガッカリな出来栄えでした。
1〜3に遠く及ばないどころか、シリーズワースト作品争いを始めかねないくらい。
というわけでやや気が進まないものの、一応感想を吐き出しときます。
ストーリーの核心をつくレベルのネタバレはなるべく避けるようにしますが、一応格納しておくので回避したい人はブラウザバック推奨。

シナリオ①

まず、あちらこちらで散々言われてる話だけど、
あまりにも未回収のままになっている伏線が多すぎるよね、と。
個人的には続編に持ち込される伏線をいくつか残しておくこと、
例えば大きな事件の予感を漂わせただけで何も起きない万博の件とか、ラスボス感を醸し出していた大物が何もなかったりとか、そのくらいはいいんじゃないかと思ってるんですよ。
ただ、一つの作品内で完結させておくべき最低限の謎
例えば作中で起きた事件の被害者や犯人の正体、関係、動機とかまで伏せられたままってのは流石にどうなのよと言いたくなる。
この裏にはどういう背景があるんだろう、とワクワクしながら進めていたら、結局何も分からないままってのはプレイヤーへの裏切りと言っても過言じゃないっすよ。
しかも今回は、後々のためにあえてフラストレーションを貯めさせるような展開が続いてたもんだから余計にね……。
それが綺麗に回収されてカタルシスを得られないのはやっぱりどうかと思います。
加えて今作は最終話が過去作品と比べてスケール小さすぎ盛り上がらなさすぎなので、
より「途中で投げっぱなしなまま終わってしまった」感が強くなるんじゃないかなーと。
一応弁護士として0からスタートした主人公の成長物語としてはそこそこ纏まってる気もするんだけど、これまでと比べて一つの大作を完結させたような重は全くなかったなあと。
2なんかも悪役の復讐を匂わせたまま次作に持越しで終わってたけど、
あれは最終話がクライマックスに相応しいスケールと熱量を持った話だから、プレイ後にしっかりとした充実感が残るのよね。

1〜3のコラムで「毎回その場その場で思いついたネタを全部詰め込んでたから、続編が大変だった」みたいなことを書いてたけど、
その結果こんな中途半端な作り方にたどり着いたのならちょっと失望しちゃいますね。
もっと全力投球で挑めよと、だからこそ今まであんな素晴らしい作品が生み出せたんじゃないのかと、一ファンとして訴えかけたくなるようなもどかしさが。

シナリオ②

「未回収の伏線多く、中途半端な盛り上がりのまま終わる」という作品全体としての欠陥を排除して、
個別のお話の出来を振り返っても、どうも今ひとつ物足りないようなところがあるんですよね。
なんでだろうと思いつつ過去のシリーズを振り返ってみると、今回はどうもあらゆる意味でハッタリが足りなさすぎるのかなあと。
特撮スタジオやサーカスみたいな特徴的な舞台設定や、
人が飛んだだの謎の巨大生物が出没しただのといった奇抜なシチュエーションを解き明かす楽しさ。
もしくは、裁判中証言を解き明かす中で思わぬ形から真実が明らかになり、状況が二点三転するスペクタル感。
今作はそういうのがほとんどなくて、
どれもこれも普通のシチュエーションで普通に事件が起こる、しかもほとんど密室殺人*1だし、
証人は大抵みんな偽証してる後ろめたい人たちで、彼らの嘘を暴けばそのまま真実が明らかになるみたいなワンパターンな展開ばっかりだった気がします。お決まりの「発想の逆転」も全然無かったしなー。
ある意味コラボみたいなものであるホームズに合わせてきてるのかもしれないけど、その分逆裁らしい面白さをイマイチ味わえなくて残念でした。

唯一4話は意外性があるといえばある真実だったけど、
あれはむしろ奇をてらうことと面白さを履き間違えたような糞展開で、シリーズ史上最低クラスのエピソードといっても差し支えないかと。
通常だととりあえず被告を延命させるためにハッタリででっち上げた適当な仮説が、そのまま真実になっちゃったみたいなノリで拍子抜けすぎたし、カタルシスの欠片もなくもどかしさだけが残るような最悪の後味でした。
何だかんだ3話まではかなり期待感持ちながら進めてたんですけど、あの話でいっきに冷めちゃった感ありますね。
いつもだと2日目で出てくる真犯人っぽいキャラが顔見世するだけで何の回収もされず意味不明なままで終わったりしてるし、
あれはホント製作中の事故か何かで無理やりシナリオ捻じ曲げたんじゃないかとしか思えない出来です。

というかそうそう、裁判を2日に分けず探偵パートと法廷パートを一回ずつで終わらせるようにしたのは完全に悪手ですよね。
いつもだと探偵→法廷→探偵→法廷に4分割する関係でそれぞれ大きな区切りをつけていたけれど、
今回はそれが半分になってダラダラと長く続くから、あまり展開にメリハリが効いてないように感じました。
プレイ時間は従来と同じくらいなはずなのに、やたら中身薄く感じたのもそのせいなのかなー。
あと、「ほとんど何もしらない状態」での探偵パートしか描かれないので、
毎回法廷パートがぶっつけ本番で後出しだらけみたいな感じになってたのもあんまり好みじゃなかったです。
まあ探偵→法廷の流れがちゃんと存在する話がそもそも二話しかないので何とも言い難いのですが…w

散々文句言ったのでバランス取りに褒めておくと、
4話とは逆に3話の法廷パート展開はいい意味で意外性独自性が発揮されててよかったです。
証拠品を眺めてて、途中で○○されたことに気づいたときはちょっとゾクゾクしました。

テキスト

検事スタッフとタクシューの最大の差異として語られていたテキストの質。
確かに所々センスを感じる言い回しはあったけれど、
今作は全体的に話しが重めなのと、
最も絡みの多いヒロインのキャラクターがイマイチ楽しくないのとで、掛け合いの愉快さをそれほど感じる局面は多くなかったかなあと。
5話のティンピラー兄弟を見ていて、ようやく「やっぱタクシューのテキストって面白いわ」と実感した感じですかね。
あと、どうでもいいけど「〜かしら」っていう言い回しがやたら多いのが気になりました。
癖なのかなーと思いつつ、でも過去作品ではこんなの無かったような…と思って調べてみたら漱石リスペクトみたいな説があるんですね。

共同推理と最終弁論

今作の二大新要素。とりあえずどっちもアイデアは良かったと思います。
共同推理は実に「探偵パート」らしいプレイ感覚を得られるし、最終弁論も4に比べたら陪審員制をちゃんとゲーム性に繋げてて好感持てます。
何より2つとも演出が凄くいい
共同推理はあのクルクル回る謎の動きが視覚的に楽しくSEも気持ちいいし、
最終弁論は炎弾を打ち込み天秤が傾くのが迫力あり、従来の裁判長の心象に当たるものが視覚化されるというのも面白かった。

一方で、どちらもテンポが悪いという問題点があって。
まず共同推理の方は、ホームズのとんちんかんな推理を一度長々と聞かされて、それから再び同じ流れを辿るのがダルイっす。
一回目はインパクトもあって面白かったからよかったんですが、
3回目4回目ともなるといい加減うっとおしいなと感じる気持ちの方が強くなってきました。
指摘自体も適当にカメラとカーソル動かせばすぐ答えが見つかる単純なものなので、なおさら冗長感が強まりますね。
最終弁論の方は、検事の介入もほぼ無い中、アホな発言ばかりの陪審員をいちいち相手どらなきゃいけないのがどうも中弛みを感じさせられて、
大ピンチな局面のはずの最終弁論に突入する度、逆に緊張感がなさすぎてテンション下がっちゃってました。
加えて、都合よく陪審員が関係者だらけなのはまあ第二の証人ポジションだと考えればまだ良いとして、
不自然に事件に関係ないことを喋りだす陪審員だらけなのはどうも強引すぎてちょっと萎えました。

どちらもアイデアは良いと思うんですが、特に最終弁論については再考の余地が大きいシステムだと思いますね。
トータルで共同推理は探偵パートの良いアクセントとして高評価を与えられるけど、
最終弁論は今作の法廷パートをつまらなくしている一因としてマイナスの評価をつけざるを得ないかな。

キャラクター

テキストのところでも書いたけど、全体的なノリが重めなためかちょっと愉快なキャラ成分が不足気味だったかなと。
メイン所だとアソウギとアイリス、サブキャラだとメグンダルとティンピラー兄弟がお気に入りです。
ストレートにカッコいいキャラ可愛いキャラ、風格ある悪役に愉快な変人とそれぞれ私の好みのツボを押さえていた感じ。
5話の犯人も、ラスボスということを考えなければなかなか味わい深いキャラでけっこう好印象だったり。

アソウギはテーマ曲が今作のBGMでずば抜けて耳に残るのも強い後押しになってますね。
それだけにあの扱いはやっぱもったいなかった感が。
そういう結末になるのはポジション的に予定調和とはいえ、過程の方はもうちょっと考えてほしかったなと。
あっけなさを狙ってあえてああいう形にしたんでしょうけど、拍子抜けな印象だけが残って裏目に出ちゃった気がします。

アイリスは5話で連れ歩いてて楽しかったで一気に株が上がりました。
屈託なく素直に可愛いし言動も味わい深い、眺めて楽しい話して楽しい良い助手ポジションでした。
ただ、あんまり出しゃばると有能すぎて「もうこいつだけでいいんじゃないかな」感が出てしまうのが悩みどころ。
法廷パートではもうちょっとナルホド君を立ててあげられるよう弱体化しても良かったんじゃないかと。

逆に微妙だったのはやっぱり助手のスサトさん。
逆裁の助手らしからぬ清楚真面目系で新鮮ではあったけど、やっぱ掛け合いがあんま面白くないなーと。アイリスとのギャップでますます残念さが浮き彫りになった感。
それに、珍しく裏表のあるキャラクターで過去の助手勢と比べて主人公への信頼感が今一つ伝わってこないので、
「一緒に戦ってる」的な熱さを感じづらかったなあと。
ずっと微妙な距離感のままなので、主人公の「世界最高の助手です」みたいな評価に今一つ共感しづらかったのよね。
でもヘンテコ道具やスキルに頼らず主人公のサポートをしてくれるところとかはわりと好きだし、
まだ秘められた謎がある分、次回作の扱い次第では株が回復する余地もまだまだあるかと。

そして残念キャラクターだったのはグレグソン刑事。
なんというか、最終話の醜態がちょっと酷すぎたなーと。
彼なりに事情があるというのを考慮しても、被告、しかも10代の少女の生死を左右する場面であれは流石に印象悪すぎた。
「素直な味方では無いけど、根は正義感に燃える好人物」というのが糸鋸刑事に代表される逆裁刑事ポジションの特徴だと思ってたけど、この人に関してはどうもそうとは思えないですね。
保身のためにアイリスに媚びるのとかもそれ自体はそんなに悪く思ってなかったけど、
最終話の行動が重なっちゃうともうこれもギャグとして快く笑い飛ばせなくなってくるしなー。
スサトさんと違ってあんまり株が回復しそうな見込みもないし、できればもうあまり見たくないキャラクターです。

この好きなキャラ、微妙なキャラ、嫌いなキャラというのは方々で感想を漁ってると同様の意見がかなり多かったですね。
逆裁に限らず、創作物については気持ちのいい善人・風格のある悪人・悪ぶってるけど根は良い奴辺りのキャラクターは受けが良くて、
いい人っぽく扱われてるけど行動に不快感あるキャラとか、悪事に対してしっかり報いを受けてないキャラとかがヘイト集まりやすい…っていう持論があるんですが、割とその通りの結果だなあなんて。

総括

直感的に進められる、シンプルかつとことんプレイヤーを引き込むゲームシステム。
珍妙で魅力的なキャラクターと遊び心溢れる愉快なテキスト。不思議な事件。
手に汗握る法廷バトル。大どんでん返しの末の円満ハッピーエンド。
逆転裁判というゲームのフォーマットは一作目の時点で既に奇跡的なバランスで完成されていて、
毎回お馴染みの人気キャラに頼らなくたって、そのフォーマットに準じて作りさえすれば絶対に面白いADVゲームになるはず。
……そう思っていたけれど、しかし待望の完全新作はその逆裁らしいフォーマット」を踏み外していたがゆえに、
未回収伏線だらけの不完全燃焼作ということを差し引いても、どうもいつもより面白さに欠けていたように感じます。
もちろんずっと同じことばかりしているより、新しいものにチャレンジしていくのは良いことなんでしょうけど、
それでつまらなくなったんじゃあ「いつものようにやっていれば…」と思わざるを得ないんですよね。

ただ、対外関係に揺れる明治時代の日本とイギリス、という世界観には何だかんだそれなりに魅力を感じたし、
伏線の中に漂うスケールの大きさに、「これがちゃんと回収されたら凄く面白くなるんじゃないか」的な期待感を煽られているようなところもあったりします。
だからこそ、厳しい評価の多い中だけれど、やっぱりちゃんと続編を出してほしいなと。
このまま何の続きもなく終わってしまえば、この作品には「失敗作」の烙印を押さざるを得ない。
けれど、システムもシナリオもグッとパワーアップさせて、
大逆転裁判」全体の物語に怒涛のクライマックス・感動的な大団円でエンドマークを打つことができたなら、
その序章としての今作の存在価値も高まってくるというものでしょう。
大好きなシリーズ・大好きなクリエイターの作品だからこそ、やっぱりこのまま失敗作では終わってほしくない。
だから、いろいろと残念な出来ではあったけれど、
逆転裁判巧舟のリベンジに期待して、今はまだ今作を「駄作」だの「失敗」だのと切り捨てるのは避けておくことにします。

*1:「指紋で犯人特定」が出来ない時代設定だから、絶体絶命の状況を作り出すために密室だらけになっちゃうのは仕方ない部分もあるとは思いますが