「立華高校マーチングバンドへようこそ」感想

昨年最もハマったコンテンツ「響け! ユーフォニアム」の続編製作がめでたく決定しました。
いやあ、何分綺麗に締めてしまったものだから、流石に原作の方はもう打ち止めで、
アニメの方もせいぜい定期演奏会のエピソードが一本映像化されるかどうかくらいかなーと思っていたんですが、まさか久美子2年生編が大々的に展開されるとは。
蛇足にならないかなという怖さも多少ありつつ、
優子部長夏紀副部長の新体制や、「新入生指導係」久美子の巻き込まれ苦悩する姿が今から楽しみでなりません。

一方、こういう道筋のスケジュールが組まれたということは、
「いつかアニメ化されたときに初見で楽しむため…」と封印した、スピンオフ小説「立華高校マーチングバンドへようこそ」の映像化は当分無さそうかなあと。

そんなわけで、今ままで読まずにとっておいた立華前後編+北宇治×立華の合同演奏会エピソード「星彩セレナーデ」を一気に読んでしまいました。
すると、まあ所詮スピンオフ…と思っていた立華編が予想以上に面白かったので、ちょっと感想を書いておこうかなと。
※以下、立華編及びユーフォシリーズ全編のネタバレ含みます。

歪みを抱えた超人、佐々木梓の人間ドラマ


「立華高校マーチングバンドへようこそ」(以下、立華編)の舞台は、北宇治シリーズでも「水色の悪魔」と称されるマーチング強豪校として登場した立華高校。

そして、主人公は久美子の中学時代の友人としてちょこちょこ登場していた立華高校の1年生・佐々木梓ちゃん。
立華編の評判を調べていると、とにかく「佐々木梓がヤバイ」みたいな、彼女のインパクトに言及するコメントが多いのが印象的でした。
実際読んでみるとなるほど、この作品の印象は佐々木梓についてのアレコレがかなり比重を占めてくるわなあと。
北宇治編では、弱小から生まれ変わろうとする部全体や麗奈・先輩たちの問題を、語り手ポジションの久美子の視点から眺めるという物語構造でしたが、
立華編では、部活どうこうよりも佐々木梓自身の個人的な問題が中心に据えられている構造で。
そのため久美子と違って、梓には北宇治編の時点では想像もつかなかったくらい強烈な個性付けがなされていました。
この梓のキャラクター性を面白いと思えるかどうかが、本作の評価をかなり左右する点になるではないかと思います。

先天的なセンスに加え、向上心を持ち続け努力を全く苦にしない圧倒的な「努力の天才」であり、
強豪校の中でも抜きん出た存在として当確を表していく、ずば抜けた奏者としての才能。
誰とでもすぐ打ち解けられ、面倒見がよく、細やかな配慮で敵を作らない立ち回りもできる社交性の高さ。ついでに久美子と違っておっぱいも大きい。
吹奏楽部員としても人としてもとにかくハイスペックで、一見完璧超人に見える梓。
しかしその内面には、誰かに必要とされたいという思いが人一倍強いがために、自分一人を絶対的に頼ってくれる存在を求める歪んだ欲が潜んでいて。
そんな気持ちに向き合うのが怖くて、蓋をして目を背けていた梓…。
本作の妙は、そうした梓の歪んだ内面にまつわる問題を、梓自身の視点で読ませることにあるんですよね。

物語の開始時点では、佐々木梓という人間は隙のないド安定なキャラクターに見える。
強豪校立華の中でも、実力にも吹奏楽への姿勢にも周囲から一目おかれていて、かといってその状況に慢心せず努力を積み重ね続ける。
一方で、放っておけばドロップアウトしてしまいそうな"か弱い初心者"名瀬あみかを、嫌な思い一つ見せず甲斐甲斐しく世話してあげる懐の深さもある。
実力の高さ故に上級生を差し置いて目立ってしまっても、どっかのトランペット奏者と違って、謙虚な姿勢をアピールして極力敵を作らせない。
強いて言えば、ストイックすぎる吹奏楽への取り組み方に危うさを感じたりはするのだけれど、
梓がハイスペックで安定しすぎて波乱の予感を覚えづらいからか、全編の序盤100ページくらいはやや退屈に思えたりもしました。
というか、前編のあらすじに「梓が強豪校の洗礼を受ける」的なこと書いてるけど、順調すぎて割とあらすじ詐欺感あるよね。
むしろ梓が強豪校の先輩たちの立場を脅かしちゃってるくらいだし……w

しかし物語が進むにつれ、奏者としても人としても成熟した強者の梓が、
奏者としても人としても未熟な弱者のあみかを支える…という構図にどこか陰りが見えてくる。
わかりやすい引っかかりどころとしては、
自分の手があみかの手よりもずっと大きいことに梓は安堵した〜みたいな感じの描写でしょうか。
そうした描写をどんどん積み上げていって、どんどん2人の関係の危うさが浮き彫りになってきたところで、
ついにパート仲間の志保と太一から「お互いのためにもこのままでいるべきではない」という具体的な指摘が飛んでくる。
また、読者視点ではあみかが現状に問題を感じて自立しようとしていることが伺えるため、
梓が思っているよりもずっとあみかはしっかりした子なんじゃないかということと、
そこから目を背けて、ひたすらあみかを支配下に置こうとしている梓の方が大きな問題を抱えているんじゃないかとようやく察し始める。
何分北宇治編の久美子が読者として全幅の信頼を置ける優れた語り手であったために、
同シリーズの梓とも同じように視点を重ねて、梓の目で周囲を見ていたのですが、
その視点がそもそもズレていたことに気づかされて、なるほど一本取られたなあと。

そして、カラーガードへの挑戦というあみかの"親離れ"を経て、
後編ではいよいよ梓の歪みが物語の主題としてどんどん前面に出てくるようになる。
ここら辺、熱いビンタをかました志保を始め、
周囲の人達がいろいろ提言してくれているのに、
自身の歪みに無自覚的な梓…という構図を、梓自身の視点で読むのが面白かったですね。
志保の説得シーンとか、読者としては凄くハッキリ伝わる具体的な言葉を使っていても、でも梓の内心には届いていなくて
サイコパス的というかなんというか、この辺の梓の心理描写はちょっとしたホラー・サスペンス感があってゾクゾクしました。
説得後のあみかや、回想での芹菜との極端すぎる距離の置き方とかもまた梓の狂いっぷりを感じさせられて…w
とにかく美点も問題点も尖り方が強すぎてちょっとビックリさせられた佐々木梓のキャラ付けでしたが、
それでも、キャリアウーマンの母との母子家庭という家庭環境が諸々の人格形成の原点として用意されていたのが、
こんなモンスターが生まれるまでの道筋を想像できるようになっていて、説得力を生んでいたのは凄くよかったなあと。
久美子や麗奈やあすかにしても、
ユーフォのキャラは家庭環境から今の彼女たちが出来上がるまでを掴みやすいのが上手いですね。
ガイドブックのインタビュー曰く作者の方も母子家庭だったらしいので、梓の話とかは実体験含めてリアリティ強化してたりもするのかしら。

そんな梓が、尊敬する未来先輩との対話で遂に自分の歪んだ感情に向き合って、
彼女の言葉でトラウマを払拭するシーンは、その後の梓の吹っ切れた感じとも相まってカタルシス満点で。
本作の人間ドラマ部分のクライマックスにふさわしい、北宇治編でいう久美子のあすか説得シーンのごとく素晴らしい場面でした。
人と結びつくためには見返りが必要だという梓の思考を、「好きだから」という単純な理屈で打ち破るっていうアンサーも良かったですね。
同じくあすかに単純な理屈で殴り勝った久美子と、先輩後輩の立場が逆なのが面白い。

この後は幸せな気持ちのままラストまで一直線という感じでしたが、
唯一ちょっと残念だったのは、怪我をした未来の代役を任された梓が、責任感で空回りして再び未来にフォローされるという展開でしょうか。
これはこれでいいシーンだったんだけど、ちょっと未来先輩が持って行きすぎというかなんというか。
梓に最も言葉を届けられる人物として最終的に止めを刺したのは未来だったけど、
志保をはじめ他の部員達も、梓の問題をどうにかしようと動いていたわけで。
例えばここで、未来不在・代役ソロ就任の状況をどうにかするために梓が他の部員たちに頼って相談して、
みんなの力で支えてもらいながら、梓が代役を全うする…みたいな展開の方が、志保たちも報われて個人的には好みだったかなあと。
そんなに急に、素直に他人に頼れるようにはならない、人の心根は簡単には変わらないってのがあるのかもしれないですが…。
でも、未来の言葉を改めて受け取った梓が、最後に母親に素直に甘えられるようになったシーンがあったのはとても良かったです。
なんといっても、梓の人格形成に最も深く関わっていたのが他でもない母親の存在なわけですがら、
その母親相手に…というのは、なによりも梓の変化・成長を感じさせてくれて。
北宇治編アニメ2期の、久美子が姉に「大好きだよ!」って伝えるシーンのような多幸感がありましたね。

こうして綺麗に欠陥を修復してしまうと、いよいよ梓に無敵感が漂ってきてしまうので、
ラストで一気に時間を飛ばして、順調に時を重ねて未来先輩のようにカッコよくなった梓で締めてくれたのも良い余韻が残りました。
成長した彼女の姿にそうした感情を抱けたことが、
前後編にわたる佐々木梓の人間ドラマを楽しめていた何よりの証拠かと思います。

強豪校・立華のプロフェッショナルドラマ

梓の話から離れて、立華高校吹奏楽部・マーチングバンドの物語としての話をすると、
まず一番の特色としてはやはり、北宇治とは違う、伝統ある強豪校が舞台であるのが故の面白さでしょうか。

立華編はとにかく終始ひたすら練習ばかりしていたような印象が残りました。
なにせページめくってすぐ、昼休みを全て練習時間に当てるために授業間の休み時間で早弁してる描写から始まりますからね。
北宇治も目指せ全国体制になってからは熱心に練習していたイメージありましたけど、
立華の吹奏楽部員達は、ホントこの子らは吹奏楽するためだけに学校来てるのではってくらい練習漬けでしたね。
主人公の梓が貴重なオフですら全て自主練に捧げちゃうような吹奏楽マシーンだから、余計にその印象が膨らんでしまいました。

そして、そんな練習量をこなす立華の部員達には「プロフェッショナル」な精神性を凄く感じました。
滝先生に乗せられ導かれるまま全国を目指した北宇治の部員たちとはやっぱり、意識の高さが違うというか。
例外的に、熱心さに欠けるキャラとして1年生の的場太一がいましたが、
彼も別に部活をサボるわけでもなく形の上はあの練習量をこなしているわけだし、
それがああいうポジションになっちゃう辺り、部全体のガチっぷりが凄いなあと。

そこで、ただ「練習熱心」ってだけじゃなく、「プロフェッショナル」って印象になったのは2つの大きな原因があって。
一つは、基本的に部員だけで部を回していくシステムを構築していること。
滝先生に手とり足とり導かれた北宇治と違って、立華編は指導者の影がとても薄かった。
立華の優秀な部員達に信奉されているあたり、立華の顧問の先生ももちろん有能ではあるんでしょうけど、
その顧問の先生や外部の指導者はコンクールに向けて詰める段階での最終的な調整役という感じで、
平常時は練習の指揮や後輩の指導は上級生達の手で回して、果てはマーチング演技の構成までも部員自身の手で考案していたのは驚きでした。
また、そういうシステム面だけじゃなく、
後輩の悩みや人間関係のこじれに気を配ってフォロー出来る先輩達がたくさんいたのも、
円滑に部を運営するための意識を常に持って、行動している感じが凄くプロ的だなあと。

もう一つは、立華がただの強豪校ではなく、オンリーワンの魅力と伝統を持った学校であること。
顧問の先生が言っていたように、立華は「立華でしか味わえない体験」が出来る唯一無二の学校で、
あみかのような例外を除いて、部員の多くはそういった体験を求めて立華に集まっている。
そんな学校・生徒たちだからこそ、
部が良くあるため、立華のパフォーマンスを維持・発展させるための努力や創意工夫を惜しまないのだろうなあと。
高いモチベーションを持って怒涛の練習量をこなし、部を良くするために自ら考え動くことが出来る。
そんな立華の部員たち、特に顧問が担いそうな役回りまで請け負っている上級生達はまさにプロフェッショナルという感じで。
久美子が上級生の問題を解決するために奔走した北宇治編と対照的に、梓や周りの1年が先輩にフォローされる構造だったことも相まって、
立華の先輩たちは非常に頼もしく、大人びて見えました。
創作ものの先輩キャラは総じて現実以上に大人っぽく見えるものですが、この作品は特にその傾向が強かったですね。
強豪校の高校球児が大人びて見える現状に通じるものがあるかなあ。

立華の特色といえばもう一つ、
「座奏」よりも「マーチング」の大会に注力するというスタンスだったのも、
知らなかった吹奏楽部の特徴的な一面という感じで興味深かったですね。
北宇治編では一世一代の舞台という感じだった座奏のコンクールが、
立華編では"本命"のマーチングコンテストの片手間みたいな感じで扱われてたのはけっこう衝撃的でした。
北宇治より元々の部員達の資質も、練習量でも上であろう立華だけれど、
コンクールの演奏を高めるために費やす時間にこれだけ差があったら、北宇治に負けちゃってもまあ不思議じゃないのかなと納得。
そんな中で、完璧主義の梓が一人、「負けてもともと」のスタンスを受け入れられず歯痒い思いをするというのも面白かったです。

あと、立華は部員皆が部活に命をかけているような環境だけに、
「才能」や「努力」というテーマ性が北宇治編よりも強かったように思います。
主人公の梓はその辺で躓くことはなかったですが、
中学校ではエリートだったのに、立華に来ると落ちこぼれちゃう志保とか、
世話を焼いていた天才肌の初心者に追い抜かれちゃう栞先輩とか、
スタートで出遅れているうえに突出したセンスもないが、ガードという道にレギュラーの活路を見出すあみかとか、
周りのキャラクター達のそういったエピソードが充実していたなあと。
「『努力する天才』には追いつけない『努力する凡才』」的な、私好みの要素が多くて嬉しかったです。
特にザ・凡人代表って感じで共感を得やすい志保は実にいい味出してたなあと思います。
梓のヤバさが本格的に露呈し始める前の、やや退屈気味だった序盤は、
周りに置いていかれて焦ったり、あみかを受け入れられない器量の小ささを呪ったり…みたいな彼女のエピソードが最初に心を掴んでくれましたね。
その後の先輩達のフォローの上手さも含めてあの辺の話はとても良かったと思います。
志保はそうして序盤から丁寧に物語を積み上げて、梓関連の問題でもとても尽力してくれたキャラだったので、その頑張りが報われる展開に期待していた節がありまして。
あらすじから察しがついていた未来の負傷展開に伴って、穴埋め要因として選ばれるのはきっと志保の方で、
いつのまにか志保に追い抜かれた悔しさを発奮材料に、太一もより一層部活に身を入れるようになる…的な展開を予想していたのですが、
普通に太一の方が選ばれちゃったのはちょっと残念でありつつも、才能の差を簡単に覆せない厳しいテーマ性の一貫ぶりを実感させてくれてよかったなと。

人間関係の機微

梓の個人的な問題がシナリオの大部分を占めていたこともありますが、
立華編は北宇治と違って、アクシデントはあれど部全体を揺るがす揉め事のようなものがなくスイスイ進んでいった感じがあります。
これはまあ、弱小エンジョイ集団から強豪ガチ軍団に生まれ変わろうとする真っ最中だった北宇治と、
既に目的意識を共有できているプロフェッショナル集団だった立華との差でしょうか。

ただ、そういう円滑に目的に向かって進んでいける集団を維持するためか、
立華のキャラクターたちは北宇治の生徒よりも周りとの接し方に気を使うような、人間関係の繊細な描写が多かったように思います。
主人公の梓が立ち回りを意識していることの多いキャラだったし、
明るい天然系キャラを演じていたあみかや、
後輩の前では頼もしくかっこいい先輩の姿を崩さまいとする未来、
手厳しい"鬼のドラムメジャー"として部を引き締めようとする神田南などなど、
意識的に役割に応じた振る舞いを演じようとするキャラクターが多かったのが印象的です。

それから、本編のアニメでもユーフォの特色の一つとして話題になった、
女の子同士のちょっと耽美な、所謂百合的描写が北宇治以上に強かったかなと。
北宇治の方はなんだかんだ久美子と麗奈に両方とも異性の想い人がいる設定でしたけど、
立華は唯一のメイン男性キャラである太一が"そういう対象じゃない"とハッキリ言及された上に、
あんまりそっち方面の需要がなさそうな(失礼)志保がカップリング候補としてあてがわれていて、"女の子の園"感が強調されていた感じが。
憧れの同性の先輩についてキャーキャー語り合ったり、
先輩の私物を貰い受ける文化があるみたいなのもそれっぽかった。感想めぐってたら「マリみて」っぽいとかけっこう言われてました。
あと、梓をめぐる2人のヒロイン・芹菜とあみかが完全に「昔の女」と「今の女」な風ですもんね…w
あんまりそういう趣向が無い自分としては、
共依存を抜け出して健全で対等な友達になっていく梓とあみかの関係は好きなんだけど、
梓と芹菜の関係の方はそういう空気がやや滲み出すぎてる感じがあってちょっと苦手でしたね。

キャラ語り

てきとーに気になったキャラをピックアップ

・佐々木梓
上でも書いたように、まあかなりのインパクトを残してくれた主人公でした。
久美子がめちゃくちゃ好きになれた魅力的な主人公だっただけに、
こういう全くの別ベクトルのキャラクター設定で攻めてきてくれたのは良かったなあと。
一見完璧に見えるハイスペックぶりに加えて、
常人っぽく見せかけつつ内心めっちゃ拗らせてて歪んでいるというギャップも相まって、麗奈やあすかを飛び越えて文句なしにシリーズ最凶キャラじゃないかと思います。
立華編の物語を経て、その歪みが解消に向かったことで、
いよいよ完全無欠の超人モンスターになってしまった感があるので、
これからはもう主人公というよりも"敵"みたいな立場で見たいキャラになったかなあとw
そういう意味では、星彩セレナーデで「久美子から見た梓」という描写が見れたのはとても楽しかったです。

・名瀬あみか
物語が進むにつれて一番印象が好転したキャラだったかなと。
最初は梓の視点に合わせて彼女を侮っていた節があり、志保のようにちょっと苦手意識も感じていたのだけれど、
だんだんその内面が見えてくるに連れて見直しはじめて、
後編でのど根性奮闘っぷりには凄く応援しながら読み進めるようになっていました。
特に、桃花先輩のスパルタ指導の中に潜む思いやりをちゃんと見抜けているところとかは凄く印象良かったです。
私は基本、「互いに良い影響を与え合う、天秤の釣りあった対等な親友関係」が好きなので、
梓との歪な関係の中で、"弱者側"のあみかが梓と対等になろうと頑張る展開はとても嬉しかったですね。
梓の視点だとドロドロ感強いけど、あみかの視点で見るとこの物語はけっこう王道な成長譚ですよね。

・戸川志保
志保は終始安定して自分の中での好感度高かったですね。
ハイスペックな梓に変わって"強豪の洗礼を受ける新入生"という役割を担っていて、
やっぱりこういう等身大の凡人で、立ち回りも不器用なキャラクターには共感しちゃうなあと。
私はこんなに根性のある頑張り屋でも、友達思いの良い子でも無いですけれど。
奏者としての苦労に加え、
あみかとの関係の改善などに見られる人間的な成長もしっかり描かれていて、梓とあみかの次にシナリオ的な背景が濃いキャラじゃないかと思います。
梓・あみか・太一の同期トロンボーン組それぞれとの関係に見所があり、
先輩との間にも印象的なシーンがあったりと、人間関係面でのドラマが充実していたのも良かったですね。

・西条姉妹
わりと重い空気の立華編における清涼剤的なポジション。アニメで見れたら楽しそう。
後編であみかとギクシャクしている間、梓の代わりの話し相手みたいな感じで凄く出番多かった気がします。
ノリの軽いお調子ものだけど、推薦入学のエリートとして強者の理屈をきちっと持ってるところが良かったですね。
フルートとオーボエの実力者コンビということで、
北宇治との合同演奏会の時にのぞみぞれとの絡みとかちょっと見てみたかったです。

・瀬崎未来
シリーズ1、男前な先輩。アニメなら夏紀先輩もけっこういい勝負しますけど。
とにかくカッコ良く素敵な先輩として描かれていたので、
「先輩に憧れて後を追う後輩」という構図としては、
本編のあすかと久美子よりも未来-梓の方が王道で感動的に見えますね。というかあすかと久美子の関係ってけっこう特殊だしね。
梓のトラウマ解消シーンに代表される、素敵な先輩としての活躍ぶりも魅力的だったけれど、
"追い抜いてしまった"栞との関係における才能あるものならではの気まずさとか、
後輩の前では隠していた涙を同級生の戦友の前では見せちゃうシーンとかがお気にいり。

・小山桃花
「あみかの梓依存からの脱却の象徴」的なポジションで、主人公の梓と直接関わることが殆どないため描写は少ないキャラだったのですが、
そんな少ない描写の中でも、彼女とあみかの師弟関係は凄く熱いものを感じました。
全力であみかを引っ張り上げる桃花も、桃花を信じて必死でついて行くあみかもとても良かったです。
特に、それまで叱責100%だった桃花が初めてあみかを評価する時のセリフがとても素晴らしくてですね。
「あみかは奏者としては志保や太一よりもずっと下、でもガードを希望したから出られてるだけ」っていう容赦ない現実と、
その上で「そのチャンスをものしたのはあみか自身の力。だから本番に出るのは恥ずべきことじゃない」っていう冷静なフォロー、
そして「根性と努力する才能がある」と初めてあみかを評価した上で、「あとは結果を出すだけ。結果の伴わない努力に意味はない」っていう締め方。
ここのセリフはホント、愛情を感じるけれど安易にデレるでもない、シビアさと優しさのバランスが絶妙で。
「あんたは凄くがんばってる! 立派だよ!」とか愛情全開の励ましの言葉をぶつけるよりもずっと胸に来るものがあったし、
こういう言葉をかけられる桃花は、これまでたくさんのドラマを積んできた魅力的な演奏者なんだろうなあとも思えて、素晴らしい言語チョイスだったと思います。
その後、努力の結果を出したあみかを桃花が褒めてあげる描写が僅かながらあったのもすごく嬉しくて、
梓視点だと梓の闇を増幅させる、ただめでたいだけじゃない複雑なシーンなんだけれど、
そういうのを差し置いて素直に感動してしまっていた辺り、ホント桃花とあみかの師弟関係は自分のツボだったんだろうなあと。

・かわいい系のビジュアルだけど言動はキツイ、でも内面は思いやりのいい子
・プライドが高く努力家で、プロフェッショナル意識が強い
この辺の要素は私の好みのキャラクターのツボど真ん中の典型パターン(北宇治だと優子が一番近いかな)なので、
わりとそのまんまの要素を抑えてる桃花は、描写がもっと増えれば立華編でダントツのお気に入りになるポテンシャルのあるキャラじゃないかと思います。現に今の少ない描写だけでもお気に入りトップ3くらいだし。
他の3年生達との間の関係とか、下級生時代の苦労描写とか、
後は何よりあみかとの師弟描写、特にあみかにジャージをあげる展開とか、もっといろいろ描写が見てみたかったキャラNo.1ですね。

・神田南
途中まではそんなに気にしていたキャラクターではなかったのですが、
クライマックス、全国での演奏直前での演説シーンで見せた涙が素晴らしくて。
今までの日々が結実する瞬間への高揚感だったり、厳しい練習の日々からの解放感であったり、これで最後という喪失感だったり。
いろんな感情が読み取れるその涙が、厳しい立華の象徴だった"鬼のドラムメジャー"の鉄仮面を崩す瞬間は、
まさに彼女たちの青春のクライマックスが今この瞬間なんだという感じですごく感動しました。
部活のために高校を選んで、毎日朝から夜まで練習漬けで、
プレッシャーだったり部内競争だったり、いろんな壁を乗り越えて…その先にこういうやり切った故の涙が出てくる。
部活動強豪校の青春の形って、こんな感じだなあという一つの象徴的なシーンでした。
北宇治編からずっと、「全力で取り組むことの尊さ」というのはユーフォシリーズの一大テーマですね。
立華の青春は、流石にここまで練習漬けの毎日送るのはなあ…と、真似したいとまで思えないけど、けれどやはり凄く眩しく見えましたね。
「立華の生徒たちは、卒業後燃え尽き症候群で楽器を止めてしまう」という設定も、これだけやり尽くしたらそりゃそうだろうなあと。
そんな彼女たちの青春の全てが詰まった、全国での"燃え尽きる"6分間は、アニメで見れたら凄く感動的なシーンになるだろうなあ。

黄前久美子
「梓の中学時代の友人」として、立華編でもちょくちょく話題に上る久美子。
久美子視点の本編と違って、外からの視点で見ることで新たな発見もあって楽しかったです。
例えば中1のときの、「先輩からレギュラー奪取事件」がやっぱりその後の久美子に尾を引いてたんだなあとか。
中でも印象的だったのは、梓からそれなりの実力者認定されるくらい、久美子の奏者としての評価が高いことでしょうか。
北宇治だと比較対象があすか・夏紀という両極端で、イマイチ久美子の実力がどのくらいの位置かって見えてこなかったんですが、
よく考えればそこそこレベル高かったであろう北中で1年からレギュラーになっちゃうくらいなんだから、まあそうだわなあと。
というか久美子のいた中学って麗奈一人が異端児みたいな感じだと思ってたけど、
もう一人佐々木梓という意識高すぎる子が出てきたり、立華にもちょくちょく生徒輩出してたり、そもそも久美子の在籍中に関西出場経験もあったりと、
「ダメ金で満足」レベルだったというのがどんどん違和感強くなってきたような。
まあ身も蓋もないことを言うと、後付け設定でその辺のズレが強くなっていったのかもだけど…。

立華編を読んだ直後だけに彼女たちの後日談にも期待してた合同演奏会エピソード「星彩セレナーデ」も、読んでみるとほぼ久美子のためのエピソードって感じでした。
なんといっても、「奏者として、麗奈に並び立つ梓の姿」に衝撃を受けた久美子が、
「自分も麗奈と対等なりたい」と意識改革するという展開がこの話の全てですね。
そしてあすかの指導を受けるという熱い展開の末、見事ユーフォのソロを勝ち取るわけですが、
座奏でもそれなりの実力はあるであろう立華のユーフォ奏者を差し置いて…ってのがその実力を物語っていますね。
しかもただのソロじゃなく、麗奈のトランペットソロとの共演"ソリ"っていうシナリオに合わせたシチュエーションがまた熱いですよね。

この冒頭の、トランペットとユーフォの2人だけの時間。
これを映像で見られてたら、確かに凄く良いシーンになるだろうなあと。
でも、「久美子が麗奈と同じ土台にあがろうとする」という展開は、アニメだと1期12話のオリジナルエピソードで既に済ませちゃってるんですよね。
だからわざわざこのエピソードやり直す意義がそこまであるのかというか、そもそも立華編もアニメ化したうえじゃないとやれないというか…。
"久美子と麗奈のソリ"っていうシチュはおいしすぎるのでどっかで、これだけでも何らかの形で回収してほしいところ。

そんなこんなで、わざわざブログ記事書きたくなった程度には楽しませていただいた作品でした。
ユーフォシリーズはアニメから入って、完全にアニメメインで味わってきたコンテンツだったので、
アニメのアレンジありき…という部分があるのかなと思っていましたが、
アニメの影響からある程度離れたこの立華編でも、ここまで楽しめるとは…。
というか、正直原作小説だけなら、北宇治シリーズよりもこの立華編の方が完成度高いんじゃないかなと。
作者の真骨頂だと思っているややエグめの高校生心理描写が梓関連で存分に発揮された上で、
強豪校が切磋琢磨しながら頂点を目指す王道部活ドラマも描けていますしね。
一方、のぞみぞれ問題の描写とかがアニメでソフト気味になってたあたりとかを見るに、
もし立華編がアニメになったとしても、原作の梓エピソードの面白さを表現しきれないかもしれないなとも。
マーチングシーンの描写とかはアニメで見たらめちゃくちゃ楽しいでしょうけどね。

アニメ→原作の順番で読んだ影響もあるだろうけれど、
原作読んで一番微妙だなーと感じたのが最初の1巻で、
そこから2巻→3巻→立華編とどんどん面白くなっているように感じます。
一度タイトル回収で完璧に締めた後だけに、製作が決まった久美子たちの2年生編は正直蛇足になるんじゃないかって怖さもあるのですが、
原作のこの、どんどん腕を上げていく尻上りっぷりを見ていると、2年生の出来にもますます期待が膨らんできました。
なんか最後にえらく上から目線になってしまったなあ……w