「アイドル」を戦わせるということ 戦闘の物語を「アイドル」で描くということ

※若干「RomanticSa.Ga」シリーズのネタバレ含みます

長い間休載していたかと思えば、突如とんでもないスピードでいっきに駆け抜けていった暗黒街ジョンブルグ編。
いくつか理由は考えられるんですが、一番大きいのはやっぱりオリキャラが大量に出てくる展開だったからだと思ってます。
それまでほぼアイドルたちと「八英雄」だけで回してきた物語に、いきなり約10人の新キャラ投入。
彼らの名前・容姿・立ち位置・さらにはそれぞれの価値観まで視聴者に馴染ませる必要があったわけですからねー。
「響き渡る声」のときも同様の理由で作りだめしてから一気に投稿してましたし、
ハリアーPのこういう視聴者の目線を意識した創作姿勢は変わってないなーと感じましたw

暗黒街編に関しては、個人的には雰囲気がガラっと変わったなーという印象がまず先走りました。
新キャラ大量投入の件もそうですが、物語の方向性みたいなのもそれまでと違うように感じられまして。
強いボスの「八英雄」と闘うアイドルたちの姿を描いてきた後、
各地に散り散りだった敵味方が総結集した大スケールの戦争編はそれまでの最高潮ともいえる盛り上がりでした。
しかし戦争編によりその八英雄が残り3人にまで減り、しかも最強の存在はアイドル側についている。
アイドルたちもみなとんでもなく強くなり、雪歩なんかはサシで八英雄を倒せるとまで言われるレベル。
そんなこんなで熱く・緊張感のある戦闘を描くのが難しい状況で、
暗黒街編は「戦い」そのものよりも、その中で「想いをぶつけ合う」ことがメインになり、シリーズ全体のテーマを押し出すための章であったように思いました。
たぶんそれが、僕の感じた「雰囲気の変化」の原因なんじゃないかなー。
そしてアイドルたちの強さのインフレも、そういった方向に物語を絞っていくためのものじゃないですかね。

さて、その暗黒街編ですが、ハリアーPがブログで公開していた後書きが非常に興味深いんですよ。
本編の感想そのものよりも、この後書きに関して何か書きたいからエントリーを立てたようなものですw
正義・悪に関する作劇論も実に読みごたえがりましたが、

ともかく、それはず〜っと思ってました。第3話くらいで春香が「これから人を攻撃するんだよ?」って言った頃くらいから。
あの辺りから「待てよ…コレって思っている以上にヤバイ物語になるかもしれない…。最初は気楽にやろうと思ってたのに…」と感じていました。
だって、彼女らは「何でもアリ」じゃダメだもの。本当に彼女たちが何の躊躇もなくバンバンやりまくっていいのか? いいのかい? みたいな感じで…

ニコマス視聴者としては、この辺が一番刺さりました。

iM@S架空戦記シリーズ」というジャンルの中には、アイドルが生身で、命を賭して戦いに挑む物語も多数あります。
というかこのジャンルが誕生するきっかけになった三国・戦国ものの動画群がそんな話ばっかりですしねw
しかし主役になる子たちは平穏に日々を過ごしている現代っ子で、しかも「アイドル」なわけです。
彼女たちをそういったシチューションに放り込むというのは、冷静に考えるとトンデモないことですよね。
完全にコメディに徹した話ならともかく、
シリアス調の作劇で、真剣にアイドルと向き合おうとするならば非常に重大な問題になってくるやもしれません。
それを解決する手っ取り早い方法は、原作のアイマスそのものをパラレルワールドとして切り離し、アイドルの生い立ちを変えてしまうことだと思います。
戦国時代や三国時代に生まれ、何かを成すためには人を殺すのも致し方ないという価値観を持ったアイドルたちなら、
例えその手を血に染めたとしても受け入れられるように思えます。少なくとも僕は。
現代日本を舞台に血みどろ劇をやったとしても、殺し屋として英才教育を受けながら育ったとかそういう設定があればまあなんとか…w

ところが「我々の知るアイマスの世界」のアイドルたちがある日突然そういった世界に飛びこむタイプの物語だと、この匙加減が凄く難しくなってきます。
僕は三戦ものとかはほとんど見てないのであまり詳しくないんですが、
もしこういった導入で、かつアイドルが戦場でバッサバッサと人を殺していくような話があればきっと抵抗感が生じるだろうなーと思っています。
そして、「RomanticSa.Ga(以下『ロマサガ』と表記します)」もこのタイプの物語なわけです。
もっともロマサガの舞台はあくまでゲームの世界・プログラミングされた存在という設定なので、三戦物とかよりはずっと負荷は軽い。
実際僕はこの話を「ファンタジー世界を冒険・戦闘するアイドルたちの話」として気楽に楽しんでいました。*1
……しかしハリアーPは、それを見過ぎすことはできなかった。
例えただ仕事の一環として入ったゲームの世界とはいえ、そこに生きる「人」を「ただの敵」だと認識する春香を描けなかったわけです。
ロマサガが単なる冒険・戦闘を描く物語ではなく、
「仮想キャラクターの意志の芽生え」や「共存」などといったテーマを扱うのは、
このシリーズを思いついた瞬間からの予定だったのか、それともこのシチュエーションにおける重さを受け止めた結果だったのか。
どちらにせよ、単に娯楽作品とするには面倒なものを背負っているように思えます。

アイドルが自らの意志でファンタジー世界に飛び込む、という点ではアイマスクエストと共通していますが*2
あちらはアイドルを絶望的な状況に追い込むことで、元はゲーム気分でやってきた彼女たちを異世界に縛り付けています。
しかし一方ロマサガはゲームを投げ出すことも出来るし、クリアすることもおそらく容易な状況です。
(この先どうなるかは分かりませんが、少なくとも暗黒街編までは…ということで)
そういった状況はシリアスに話を進めるうえで、ある種の足枷になりかねません。
少し汚い言い方をするならば、「こいつら何必死になってんの?」みたいな感じで。
でも、それでもアイドルたちには楽をさせない。面倒な道を進ませる。
「意志の芽生え」を描いたことにより、彼女たちが相対する敵は単純にプログラムだと割り切れない存在へと変わっていき、
奴らの中にはアイドルたちの姿勢に感化される者もいる一方で、善意にふれてなお「悪」であり続ける者もいました。
そんな存在の前でも、アイドルたちは「悪だから」「敵だから」「仇だから」と思考して倒すのではなく、和解の道を模索し続ける存在でなくてはならない。
後書き曰く、彼女たちは主人公側で、「正義の味方」だから。
そしてきっと……「アイドル」であるからなんだと思います。
だから「RomanticSa.Ga」というシリーズ、特に「暗黒街ジョンブルグ編」は、
アイドルが敵と戦い・敵を倒すという、ある種架空戦記のタブーともいえる問題に正面から向き合った物語であり、
そして、そういう戦闘の物語をアイマスでやる意味」を追究した物語なのかもしれない。
動画を、そして後書きを見て、そんな感じのことがぼや〜っと思い浮かんだので、イマイチ考えがまとまってないのに勢いで記事にしちゃいました。反省はしてない。

*1:だから正直なところ、戦闘シーン的な面白さは強大な敵にアイドルたちが力を合わせて立ち向かった15話、
物語の盛り上がり的な面白さは33話がピークだと感じていたりします。

*2:マスクエは「アイドルとドラクエキャラの精神が融合している」という設定がある以上、厳密なところ根本部分でロマサガと大きな違いがあるのですが……