「劇場版 響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~」および久美子2年生編感想

 


『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』本予告

劇場版「響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~」、

および原作小説「波乱の第二楽章 前後編」「ホントの話」のネタバレ含みます。

映画の第一印象

これまでユーフォは基本アニメ→原作の順で見てきたのですが、今回の二年生編は

原作前編→映画リズ青→原作後編&ホントの話→誓いのフィナーレというちょっと変わった順番で楽しんでみました。

すなわち、今回の映画は初めて原作を完全に読んだうえでの鑑賞だったわけですが、

その第一声として…

「尺が足りなさすぎ!」

というのが、とにもかくにも真っ先に浮かんでしまいました。

TVシリーズ2期の時も、尺の関係で削られて残念…みたいなシーンはありましたけど、大事な点は概ね抑えてましたし、むしろアニオリ補完部分(黄前姉妹関連とか)がそれを補って余りあるくらい魅力的だったんですが、今回は流石に足りない要素が多すぎましたね…。

単純に原作で良かったシーンが見られなかったという残念さもあるし、駆け足気味に詰め込んだせいでどうしても一つ一つのエピソードが薄く、ダイジェスト感が出ちゃってるような…。これ原作読んでなかったらどんな印象持ったんだろうなあ。

映画一本に2年生編をまとめなくちゃいけない…という事情を考慮すると、上手く省略したりニュアンス変えたりしてなんとか頑張ってまとめてるかな、とも思うのですが、

・原作にあった加部友恵と夏紀のやりとりを入れなかったこと

・久美子と秀一が別れる場面を大会前にしたこと

↑の2点がどうにも引っかかって、やはりモヤモヤが残ってしまいました。(詳細は後述)

 

商業的な判断としてはたぶん映画でやる方が妥当なんだろうし、そもそも続きが見られるだけラッキーなんだろうと理解はしていても、

やっぱりTVシリーズ13,4話かけてじっくりやってほしかったなと。

それだけ時間があれば、今まで通り最高のアニメを作ってくれただろう…という信頼があるだけに、残念です。

 

と、開幕から愚痴っぽくなっちゃいましたが、アニメも動く久石奏が見られた、恋愛してる久美子が可愛かった、演奏シーンが相変わらず素晴らしいとか良い点はもちろんありましたし、

何より原作の久美子2年生編の物語自体にはかなり満足してるので、その時の楽しい気持ちを思い起こしながら以下、アニメ原作ごちゃまぜで感想書いていこうかなと。

 

新星・久石奏

f:id:kurumizaka:20190506152314j:plain

2年生編の大きなトピックの一つが、原作前編・誓フィナでは全体通してメイン的な存在になる新キャラ久石奏の登場だったわけですが、個人的にも最大の収穫といえるほどインパクトのあるキャラでした。

なにせ黒髪ショートボブ小悪魔系美少女というビジュアルに、物腰丁寧・蠱惑的な言動・利口で腹黒という性格面まで、もろ自分の好みにブッ刺さってましたからね。客観的に見れば既存の人気キャラをいきなり食うほどではないかなって風にも思うのですが、自分の中ではストライクゾーン直撃すぎて既にお気に入り5位くらいの位置まで上り詰めつつあるかなと。今回のアニメも、「動く久石奏が見られる!」というのが一番の楽しみといっても過言じゃなかったですしね。

実際その点はアニメにも満足なんですが、欲を言うとまだ物足りない、魅力を引き出しきれてない、もっともっと見たかった…とか思っちゃったり。

例えば、アニメでは久美子との絡みがほぼメインでしたが、和解後の夏紀との、ホントは好きな先輩だけど素直になれずツンツンしちゃう感じだとか、唯一対等に渡り合える同級生である梨々花との奇妙な友人関係とか。こういう久美子以外との関係描写も、奏の別の魅力的な一面を引き出してくれるので見たかったなと。

久美子との絡みでいえば、原作でめっちゃ好きだったファミレスでの黄前相談所シーン。あそこやってくれたのは嬉しかったんですけど、原作で好きだった久美子側からのアプローチが無くなったのはとても残念でした。夏紀が"いい人"であることに奏が困っているのは「嫌いになれないから」だろうと踏み込んでいき、あすかの弁舌テクニックを踏襲しながら、

「最初ね、私、奏ちゃんのことを去年卒業した先輩に似てるなって感じたの。容量がいいところとか、人をよく見てるところとか。でも、ずっと一緒にいたら、やっぱり全然違うなって思った。奏ちゃんは、甘いよ。詰めが甘い。利己的な性格を演じてるのは、それがカッコいいと思ってるから?」

と強烈な言葉で攻め込み、どんどん奏のメッキを引き剥がしていく。このくだりホント痺れたんですよね。それまで、あすかの姿を重ねてしまうほど奏に翻弄されっぱなしだった久美子がついにやり返した!というカタルシスもあったし、vsあすかを経た久美子が頼もしく成長している実感も湧きましたし。けれど、ここで説得として「夏紀はいい人だから、好きになって欲しい」という言葉を選んだことが、結果的にますます奏を追い詰めオーディションでの愚行に走らせてしまう。そういう流れまで含めて凄く秀逸なやり取りだなあと気に入っていたので。

 

あと奏自身のことでいえば、中学時代のトラウマのくだりが原作とアニメで変わってましたね。原作では「自分より要領が悪く下手糞な同級生が、『練習頑張ってるから』という理由で可愛がられ、自分を差し置きコンクールメンバーに選ばれた」だったのが、アニメだと「先輩を差し置いてメンバーに選ばれ頑張ったのに結果が出ず、選ばれたこと自体を否定された」って感じになってましたね。どちらも「自分の頑張りが評価されなかった」って点では一緒ですが、ニュアンスは結構変わったなと。原作の方がチューバ問題で美玲に肩入れした理由と繋がりやすいけど、夏紀に席を譲ろうとした流れにはアニメの方が繋がりやすいかな。

何よりアニメは、全体通して「努力は報われるか。報われないかもしれないのに頑張る意味は」みたいなのが一大テーマ的な感じになっていたので、それに合わせて奏の過去を変えたというのが大きいのかな。こういう形になったことに理解はしてるし、アニオリの1期12話(「上手くなりたい!」絶叫)から続く流れを感じてこれはこれでグッときたんだけど、奏のキャラ自体にとっては原作の方が小器用だがまだまだ未成熟な彼女らしくて好きかなあと。

 

奏に限らず、他の新一年生達も中々いいキャラしてて良かったですね。正直先輩世代に比べるとやや弱いかなという気もするんですが、基本的に部活モノって先輩世代より後輩世代の方がキャラが弱くなるのが基本というか、なかなか避けがたいようなところがあるよなと。主人公目線でカッコ良い先達としての姿を描け、卒業までの過程や回想で過去の積み上げまで描ける先輩キャラの方が、どうしても有利になっちゃうと思うんですよね。

その点考慮すると、顔役である奏がトップクラスに食い込んでくるくらい魅力的で、他の面々も十分好感を持てる、2年生になった彼女達の物語も楽しみになっているという点でユーフォは十分健闘した方じゃないかなと。

 

敗北の似合う三年世代、優子と夏紀

物語が久美子三年生編まで続く…となった時点で、二年生の課題として一つ、「どう三年生編に繋ぐか」という点があって、その結果関西ダメ金で一度挫折を味わうという形になった側面があると思うんですが。

それ以外にもう一つ、この展開が凄くしっくりきた、納得できた理由として三年生世代の中心が吉川優子・中川夏紀のなかよし川コンビだというのがありまして。2人のファンには怒られるかもしれませんが、この2人って報われない・敗北する姿が凄く似合ってしまうところがあるよなあと。

そもそも中学時代や、1年時の集団退部騒動で既に苦い思いをしていますし、その後も夏紀はオーディションに落選・あすか退部騒動でのメンバー入りも無くなり*1・あすかの復帰説得でも奏の八百長騒動でも、肝心なところは主人公の久美子に持って行かれてしまう。

優子は香織先輩にソロを吹いて欲しい願いが叶わず、憧れの香織や大好きなみぞれにとっての一番にもなれず、献身ぶりがいつもイマイチ報われない。

 久美子や麗奈なんかが華々しい活躍をするその陰で、いつもどこか割を食いつつ、縁の下の力持ち的な役割を果してきたのがこの2人だったように思います。それだけに愛おしく、読者視点で報われて欲しいと誰より思わせる2人が、残酷にもまた敗れてしまう。だからこそ読者感情を強く揺さぶられるし、彼女達の意思が黄前新部長に託される展開によりいっそう滾るものがあるわけです。

最後までちょっと損な役割を引き受けながら、物語の盛り上げを支えた。実にこの2人らしい幕切れだったなと。だからこそ主人公は久美子、前編のメインは奏、後編のメインはのぞみぞれでありながら、久美子2年生編通しての主役は優子・夏紀の2人だったような印象が残っているんですよね。

魅力的でかつ応援したくなるキャラクター性・ドラマ性、人間関係の豊富さ、"支え役"としての便利さ諸々含めて本当に優子夏紀の2人は大きな役割を果たし続けた、貴重なキャラクターでした。それだけにこの2人が表舞台から去ったというのは、今後のシリーズにおいて大きすぎる損失だよなあと。3年生編はなかよし川不在の穴が響いてくるんじゃないかなー、というのが一つ不安要素だったりします。 

 

吉川優子部長の働きぶり

f:id:kurumizaka:20190506152322j:plain

吉川優子好きの自分としては、二年生編通して優子部長の有能っぷりが印象的でした。正直最初に優子・夏紀がトップの体制と聞いたときは、ちょっと頼りなさそうな印象を覚えた気がします。前政権の晴香部長も頼もしい、って感じじゃなかったけれど、実質的に部を掌握していたのは絶対的カリスマのあすかだったし、アニメだと善性かつ影響力ある香織が味方サイドにいてくれるのも安心感ありましたからね。

それに比べると、優子は奏者としてそこそこ止まりだからあすか香織ほどカリスマ感がなかったし、Tpソロ騒動でトラブルメーカー的な危うさもあった。それを支える副部長の夏紀も精神性は信頼できるけど、奏者としての実力面とか不安要素もあったし、この部長副部長コンビでどこまで上手くやっていけるのかなあと。

しかし蓋を開けてみると優子部長、めちゃくちゃ頼もしかったなと。久美子が度々絶賛する演説スキルの高さで上手く部員を鼓舞。早々と次期部長として久美子に目を付け、引退後に向けての準備まで進める鑑識眼や計画性。ドラムメジャーも猛練習でしっかりこなし、人前で弱い姿を見せない逞しさ。一方で、人間関係の円滑さや精神的に脆い夢への配慮とか、思いやり・気遣いのできる面もあって。あすかと晴香それぞれの良い面を併せ持った、かなり優秀なリーダーだったんじゃないかと。ある程度は元々の素質があるにせよ、そうしたリーダー像を優子自身の意識的な努力で作り上げていった節があるのがまた、彼女らしくて凄く素敵ですね。

ちょくちょく頑張りすぎて危うい描写があったのがどこかで躓くフラグだと思ってたんですが、夏紀や友恵の支えもあってなんとか一年無事に完走しきって、この一年の北宇治吹部的MVPは間違いなく吉川優子だったんじゃないかなと。

 

リーダー優子の評価においては、作中の登場人物達、特に麗奈と久美子から絶賛が相次ぐのも大きいかな。

麗奈はあの偽りのない人柄+ハイスペックなだけに、要求の厳しそうな彼女に評価される優子の株も自然と上がる。というか2年生編の麗奈はすっかり優子部長信者みたいになってて面白かったんです。あすか信者の希美に「前任者が凄すぎたからなー」みたいに言われて、「優子先輩は有能だと思いますけど(怒)」って反論するシーンとか笑えた。優子と麗奈の関係性描写においては1年生編時点だと圧倒的にアニメの方が充実してただけに、アニメで優子部長を慕う麗奈という図式を見たかったなあ。

そして何より、原作小説においては絶対的な裁定者みたいなところある視点キャラの久美子が、地の文で優子部長を褒めまくるのはデカい。晴香部長改め"小笠原"に対しては結構容赦ない見方してた記憶がありますからね(笑)

久美子にとっての優子は楽器も違うし、夏紀ほど直接的な絡みがあったわけではないんだけれど。でも繰り返される地の文での高評価が久美子→優子への親愛信頼を感じさせて。優子側からも、みぞれのお世話や"黄前相談所"を任せるところに久美子への信頼や次期部長候補として期待感が見て取れる。そうやって間接的に、しっかり2人の間に絆が築かれていったような手応えがありました。だからこそ、優子部長が久美子次期部長に全国金賞の夢を託す、久美子がそれに応えたいと思うくだりに説得力と熱いドラマ性を感じられてよかったなと。

 

一方、そんな有能優子部長が北宇治を全国まで導けなかった理由として、ただ「ライバル校がもっと凄かった」だけじゃなく、優子部長・北宇治吹部自身の説得力ある問題点が明示されていたのも良かったですね。

協調性を重んじたり脱落者を出さないような運営に励んだことで、部から全国への貪欲さが薄れ緩んでしまった。そして優子がそういうスタンスを重視した背景に、前年のTpソロ騒動で後輩を巻き込み混乱を引き起こしたことへの後悔・反省があった。

あと一歩が届かなかった理由としても、優子がそういう道を選んだ理由としても納得できすぎるし、去年の騒動が物語に根付いているという点でも完璧なアンサーじゃないかなと。それを具体的に象徴してくれる、小日向夢の存在によって説得力が増しているのもまた素晴らしい。映画で省かれちゃったのはまあ妥当だと思うけど、夢はこの点二年生編において大事な役割を果たした意義深いキャラだったよなと。キャラ自体もなかなか興味深くて好きですし。

 

加部友恵の完璧な活用法

f:id:kurumizaka:20190506152337j:plain

原作二年生編を読んだときに一つ感動したポイントとして、アニオリキャラだった加部友恵がフィーチャーされて、しかも完璧な形で活用されたことがありました。

友恵は元々、原作では影も形もない、アニメ化において背景の脇役部員の一人として生み出されたキャラでした。が、同じTpの同学年女子として優子と仲良し・ソロオーディション関連でフォローした優子の相方的なポジションにいたり、落選組(チームもなか)メンバーの仲間として夏紀や葉月と仲良さそうだったりと、脇役部員にしてはやたらと主要キャラと絡み目立つのでちょっとした特別感もありました。

優子部長・夏紀副部長体制になる2年生編ではますます美味しい位置になるキャラだし、アニメ続編でこっそり香織のような第3,4の幹部ポジションに座ってたら嬉しいな…という話をTVアニメシリーズの感想で書いていたのですが、まさか原作の方で取り上げられてガッツリ本編に絡めてもらえるとは驚きでした。

しかも、ただ登場させただけじゃなくその活かし方がまた素晴らしくて。顎関節症で奏者をリタイア→マネージャー転向という彼女自身の物語も面白かったのですが、それ以上に感激したのが与えられた役割。

有能マネージャーとして過労気味の優子部長の仕事量を減らし、無念のリタイア劇が共にコンクール出場を誓い合った夏紀を刺激する。

f:id:kurumizaka:20190506152339j:plain
f:id:kurumizaka:20190506152344j:plain

「優子の相方・フォロー役」で「夏紀ともなかメンバー仲間」というアニメでの立ち位置を完璧に反映した展開でしょう。アニメでその存在感や隠れた物語性が気になりつつ、でも所詮モブ級の脇役だから…と残念がっていたのが、なんと原作で取り上げられたうえにこんな120点満点級の回答をもらえるなんて。アニオリの脇役で原作に逆輸入されて、アニメの少ない描写を踏まえたうえでより個性付け・活躍させられる。加部友恵の物語に関しては、原作とアニメの完璧な融合を見せてもらった気分ですね。

 

一方、そんなアニメ発祥のキャラであるにも関わらず、尺の問題で誓フィナでは削られるので…と危惧していただけに、とりあえず映画でも出番もらえて一安心。だったのですが、友恵にとって一番大事なシーンだと個人的に思っていた、マネ転向決定後の夏紀とのやり取りが入っていなかったのが残念でした。(夏紀が「今年こそ一緒にAで出ようって言うてたやん」と悔しさを滲ませるシーン)

あそこはもなかメンバーとしての2人のドラマ性自体にも熱く感じ入るものがありましたし、夏紀のオーディションにかける思いを垣間見ることで奏がますます追い詰められていくという、友恵のエピソードと奏のエピソードを繋ぐ役割も果たしていると思うんですよね。一本の映画作品として綺麗にまとめるなら、尚の事このシーンがあった方が綺麗に繋がるし、省くと友恵のエピソードの存在意義が薄れちゃうんじゃないかなあと。

 

友恵関連のシーンでいうと、上記の夏紀とのやり取りともう一つ、関西大会後の「マネージャーとしての演説」や夢とのやり取りも良かったですね。前編で役割を終えたキャラだと思ってたので、後編のしかも最終版でこんな大きな見せ場が残っていたのも予想外の喜びだったし、その内容もまた感動的で良かった。マネージャーとして送った青春の輝かしさや、彼女だからこそ果たせた次期主力小日向夢の育成とか、奏者としての生き方以外の新しい価値観を示してくれる意義もありましたし。友恵はアニメでの積み上げ効果のおかげで、ホントに実質2年生編からの登場とは思えないくらい濃いドラマ性を持ったキャラになってくれたなと思います。

 

秀一との恋愛劇と別れるタイミング

原作だと1年生編冬の短編で秀一と久美子が結ばれて、2年生編では恋人としての2人の関係が描かれていきます。が、なんともじれったく進展が見えなかったり、秀一があまりに都合のいい男に見えすぎてしまったりで、正直あんまり面白みがなくて。*2「もう最後かもと思って2人をくっつけてみたものの2年生編執筆が決まって、持て余し気味になっちゃったのかなこりゃ」とか、若干冷めた目で見てしまっていました。

ところが、そんな評価をひっくり返されたのが最終版の別れ話のシーンでした。無念の関西ダメ金のあと、優子夏紀に部長職を託された久美子が、決意の証として秀一の恋人関係解消を切り出す流れ。久美子の想いの強さが具体的に見えて凄く熱くなったし、その想いを察して受け入れる秀一の器の大きさにもグッときた。このシーンのため、久美子部長誕生を盛り上げるために2人の恋人展開があったのかと。「久美子を支える男」として存在感を示した秀一が副部長に指名されるというオチも含めて、より2人のことを好きになれたとても良い展開でした。

 

同時に、アニメはどことなく秀一との恋愛描写を避けているイメージがあったため、「久美子×秀一の恋人関係を描けない限り、アニメは絶対に原作の熱量を越えられないだろうな」と、勝手に見限って残念な思いになったりもしました。

それだけに、キービジュアルで久美子と秀一のグータッチが描かれて、どうも今回は恋愛描写をやるつもりらしいぞ…となったときはめちゃくちゃ嬉しかったし期待感高まりました。実際その願いは叶ったし、アニメの可愛い声が良い久美子がラブコメしてるさまは凄く楽しくて、恋人関係中の2人の描写は原作を上回っていた……のですが、

f:id:kurumizaka:20190506152317j:plain

どうにも引っかかるのは2人の別れるタイミングを関西大会前に変更しちゃったこと。

敗北・部長継承という流れがあったからこそ、原作での別れは凄く重みや熱量があったのに、これじゃ全然生かされてないじゃんと。アニメも「上手くなりたい」に没頭するために…という流れがあってという感じではあるんだろうけど、でもやっぱりこれじゃ足りないなあと。というか、原作の「来年の全国金のために別れる」というシーンを意識して「"誓い"のフィナーレ」というサブタイが付けられたものだと思ってたので、この改変の仕方はちょっと予想外でした。うーんやっぱりモヤモヤが止まりませんね。

 

 ご褒美の原作エピローグ

原作第二楽章完結後の短編集「ホントの話」に収録されてる各短編、とりわけ2年生編エピローグという趣の強い卒業式の話「飛び立つ君の背を見上げる(D.C.)」が素晴らしかった。

この1年、 誰よりも部のために頑張った吉川優子部長の目線で振り返る思い出描写の一つ一つに感じ入るものがあったし、夏紀への不器用な手紙の内容には涙を誘われたし、何よりみぞれから感謝の言葉をもらえたのは優子にとって最高の労いなだけに嬉しかった。敗北が似合う、と上述したけれど、こうして素敵な思い出となる日々を過ごせて、具体的に報われるような成果も得られた優子には凄く充実感や幸福感が満ちていて、そこに悲壮感はない。全国金の夢は叶えられなくとも、最高の高校生活を送ることができた紛れもない青春の勝者なのだと、そう思える爽やかなエンディング。最高の形で優子夏紀世代を送り出すことができて、読者の自分にとってもご褒美的な素晴らしいエピローグでした。

 

今後(3年生編)への展望と期待

そんなこんなで、原作の出来には満足しているが、尺不足が祟ってアニメ(映画)の方は不完全燃焼…といった感じの2年生編総評でした。これからTVアニメシリーズで再制作ってこともないだろうから、2年編のアニメ化はやっぱりこれで終わりでしょうか。それ自体も残念だし、2年編の"繋ぎ"が弱くなったせいで続く3年生編の熱量も連鎖して下がっちゃうのがまた残念ですね。*3

ユーフォというコンテンツは元々アニメから入って、今まではアニメをメインとして楽しんできましたが、今後は原作メインで考えていく転換点になったかなあと。アニメに主流として完璧さを求めると物足りない誓フィナも、好きな原作の映像化という捉え方なら動く久石奏やラブコメ久美子、演奏シーン辺りだけでも十分お釣りはきますし。

とはいえ1年生編はやっぱりアニメの方が好きだし、2年生編も専用に大胆な再構成を施したのぞみぞれパートに限っては映画リズ青の方が好きなので、ここは原作・ここはアニメといった感じでお互いのより優れた部分を正史として勝手に採用して、自分の中で都合のいい物語を組み上げていくような楽しみ方になるかな。

さておき、もう3年生編のアニメ化まで待つ必要もないかという感じで、今から原作3年生編を読んでしまおうかというところなんですが、その前に3年生編に期待することをいくらか書いておこうかなと。

・なかよし川の穴を埋める新星

2年生編で優子夏紀をはじめとする魅力的な先輩キャラ達が出て行ってしまった穴は非常に大きく、既存のキャラだけではなかなかカバーしきれないかなと。かといって、ポッと出の新キャラでいきなり盛り上げるのもキツイ…と頭を悩ませていたところで一つ、ヒントを見た気がしたのが新体制デビューを描いたアンサンブルコンテストのエピソード。

この話では、加部友恵と同じくアニメからの逆輸入組である釜屋つばめの成長エピソードが描かれ、他にもホルンの森本美千代・パーカスの井上順菜も同じく逆輸入組として登場したわけですが。アニメで既に登場して気になっていたキャラ達なだけにポッと出感もなかったし、むしろこの子達こういうキャラなんだって知れる嬉しさが上回っていて、凄く楽しかったんですよね。そんなわけで、この逆輸入方式はなかなか強力だなあと。久美子たちと同じ3年生である分、新入生キャラとかよりも積み上げのある濃いドラマを描けるのも大きいですし。流石に加部友恵レベルで本筋の盛り上げに寄与するキャラは出てこないでしょうが、こういう逆輸入採用キャラたちの小さなドラマをたくさん積み重ねていけば、久美子世代全体の物語はかなり豊かなものになるんじゃないかと期待してます。

 

・久石奏の活躍と次世代への期待感

2年生編における一つ大きな収穫だった、次世代の中心キャラ久石奏。第二楽章前編で既にメインの話は終えてしまった感もありますが、魅力的かつ使い勝手もよさそうなキャラですし、まだまだ暴れて欲しいところ。個人的には立ち回りの上手さを活かして1,2年生と久美子たちとの間を上手く取り持つような、久美子部長の副官的なポジションでの活躍とかを見せて欲しいかな。そうして久美子との関係性を強めて、ラストで「響け! ユーフォニアム」の継承シーンとかがあると熱い。

奏自身だけに限らず、奏世代(次期二年生)達の活躍を描くことも忘れないでほしいですね。北宇治の物語はおそらく久美子世代までで終わりでしょうけど、久美子たちが去った後の北宇治の話も見てみたい…と期待感を抱かせてくれるくらい、奏世代の育成もきちんと果たしておいてくれたら嬉しいなと。具体的に期待するところを挙げると、まずは奏と共に次期体制の中心になるであろう(というか部長候補本命?)梨々花。あとは、あすか・みぞれ・麗奈と続いた後だとどうしても次のエース級がいないと弱そうに見えちゃうので、奏者としての実力面で次の柱になるようなキャラも欲しいですね。ここは別に新1年生世代でもいいですが、奏世代で期待するなら実力者としての描写が目立つ夢か、もしくは血筋的に凄い才能を秘めてるかも+覚醒展開の可能性もありうる求くらいかな。まあ現状全国最強クラスの緑輝でもそんなに目立つ感じでもないところを見ると、コンバスがエースって風にはなりそうにないけど。

 

・葉月の報われ方

アニメで「北宇治カルテット」の一角扱いになった加藤葉月ですが、原作での扱いは二年生編でも相変わらず厳しいものでした。オーディションで選ばれなかったのはまあ仕方ないにしても、

・チューバ後輩ダブル鈴木の揉め事を解決できない、どころか悪化させた節もある

(久美子は奏、緑輝は求とより面倒な後輩を手懐けたのに)

・勉強をサボり、将来を見据えて努力する緑輝と学業成績でも差がつき始める。

辺りはちょっと可哀想だなあと。でもこれ葉月がダメというより、他のカルテットメンバーが優秀すぎるんですよね。能力も精神的にも突き抜けてる麗奈と緑輝は言わずもがな、久美子も人望モンスターなうえに部長という役職まで手に入れちゃいましたし。しかも3人とも吹奏楽への熱意・努力量も部内トップクラスときてる。そんな3人に比べて、葉月だけあまりにも普通の凡人すぎるが故にダメみたいに見えちゃうんでしょう。

3年生編では流石にオーディションメンバーに入れてもらえるでしょうけど、これだけ溜めてきたんだからただ選ばれるだけじゃなく、それ相応のドラマ的な盛り上がりが欲しい、"報われ方"にひと工夫ほしいなと。あとはこれだけ久美子麗奈緑輝と違う"凡人"描写を積み上げてきただけに、凡人ならではの特色を生かしたような展開も見たいところ。アニメが勝手に"カルテット"扱いしただけで原作者的にはそこまで活かすつもりのない、所詮秀一×久美子の当て馬要因で用意したキャラにすぎないのやもしれませんが、アニメから入った人間としてはやっぱりメインの一人として思い入れのあるキャラだし活躍がほしいですね。

 

・緑輝のメイン展開

カルテットのもう一角、緑輝の方にも目立つ活躍描写がほしいところ。こちらは葉月とは対照的に、二年生編でますますその無敵っぷりに磨きが掛かっていましたが、それだけに便利な脇役的立ち位置が板についてしまっているというか。緑輝主体のエピソードって全然ないですもんね。死角がなさすぎるだけに、3年編でも彼女自身をめぐる問題がピックアップされることは無いでしょうけど、他の事件に対して緑輝がメインで出張ってくるような展開が一つ欲しいところ。その点祖父との問題が残っている後輩の求なんてまさにうってつけなので、求問題は久美子メインじゃなく緑輝メインで解決させて、シナリオ本筋に一つ緑輝の爪痕を残させてやって欲しいです。

やっぱり1年の頃からの主要人物で、低音パートの仲間である葉月・緑輝の見せ場なくして最終楽章締めというのは寂しいので、今回こそはただの友達A・Bに留まらない2人の活躍を見せて欲しいところです。

 

・北宇治吹奏楽部の成長

関西ダメ金という結果に終わった北宇治が、翌年全国金を目指すうえでどう変わっていくか・成長していくかという説得力ある描写が欲しいです。なんやかんやで全国銀以上の成果はあげて終わるんじゃないかなーと予想してますし。

まあ(大エースみぞれがいたとはいえ)人数的に穴の優子世代が抜け、滝の指導を3年受けた久美子世代+実績ある部に入ってきた1・2年生という構成になれば間違いなく部の地力はあがるので、それだけでも昨年以上の成果を挙げる理由としては十分すぎるかも知れない。けど、物語を面白くするうえではやっぱりそれ以外の要因も描いて欲しいですね。例えば新役職ドラムメジャーの存在が、どれほどこれまでの部になかったプラス要素をもたらすか、とかね。

 

・久美子たちの未来

クライマックスを迎えたあと、エピローグでガッツリその後のキャラクター達の姿が描かれるのが好きなので、ユーフォも久美子卒業後の未来描写に尺とって欲しいなと。久美子が選んだ進路(王道的には音楽教師辺り?)でどうなっているのかとか、秀一との関係がどうなったとか*4、麗奈や葉月緑輝が何してるかとか、新星北宇治吹部の様子とかその他諸々…。

 

とりあえず大きく気になるところとしてはこの辺かなー。こうした希望が一つでも多く叶うことを願って、あるいは予想以上の形で消化されたり、予想外に嬉しい要素が見つかったりすることを願って。今から最終楽章へ突入していこうかと。

 

 

 

*1:これはあすかに復帰してほしいというのが本人の意思でもありましたが、それでも代わりにコンクールに出たい思いもあったでしょうし

*2:新1年生と秀一の怪しい関係を気にする久美子の描写とかは好きだけど

*3:そもそも3年編のアニメ化があるか分かりませんが

*4:秀一がいい奴すぎて不憫なだけに、恋人としてもう一度結ばれた描写は是非欲しいですね。直接的なものじゃなく、引退後の久美子が例の髪飾りつけてるとかそういう一文でもいいから