「響け! ユーフォニアム」を語り倒したい(後編)

「響け! ユーフォニアム」を語り倒したい(前編)

アニメの感想はだいたいこっちで書いたんですが、
同時に読みすすめていた原作の方もまた面白かったと同時に、
アニメで削られた・改変された部分、逆に追加された部分とかの差異がいろいろと興味深かったので、
そういったアニメと原作の違いについても言及してみたいなーと。
あと、その辺も含めてこのキャラのここが好き!みたいなキャラ語りも併せて…。

ちなみに、原作は1〜3巻及び短編集、あと後日談小説「冬色ラプソディー」まで既読。
佐々木梓を主人公とした立華編、及び北宇治と立華の合同演奏会を描いた「星彩セレナーデ」は未読です。

関西弁→標準語

けっこう有名な話ですか、原作のユーフォは久美子とみぞれ以外の部員達は全員、地元の関西弁を喋ってます
あの麗奈さんも「めっちゃ悔しいねん」とか「ねじ伏せたるわ」とか言ってて、アニメの調子で脳内再生するとちょっとシュールです。
アニメから入ると最初は違和感ありますが、なんだかんだ読み進めると慣れてきて、これはこれでな感じになりました。
また、原作のキャラクター達の物言いはアニメと比べるとややキツイ、攻撃的で棘のある印象を受けますね。
これは関西弁と標準語の語気の違いだけじゃなく、アニメが全体的にそういう部分をソフトに表現し直してる面もあるんでしょうが。
ただ、そんな中で唯一麗奈だけはあの性格に対してフランクな関西弁がいい具合に和らげてくれてて、
標準語にしたアニメの方が剥き出しの切れたナイフ感が高まってる気も…。

部員全員に設定がつく、及び部員数の削減

原作では、アニメのクレジットに名前の出てくる主要キャラクター以外の部員は、基本的に名前も設定も無い完全なモブ扱いです。
オーディションの合格者発表シーンでTpの笠野沙菜と滝野純一が名前だけ登場、
あとは男子部員メインの短編エピソードで、アニメから逆輸入されたらしいTp滝野純一とA.Sax瀧川ちかおが登場するくらいでしょうか。*1
つまり、主要部員15人*2以外の北宇治吹奏楽部員達はほぼ全員、アニメ化に際して一から作られたキャラクター達なわけです。

製作陣のこだわりおかげで、彼ら彼女ら脇役部員たちにも一人一人しっかり個性が与えられて、
可愛い子を探すビジュアル的楽しさとか、彼女たちの隠れた物語を拾っていく群像劇的楽しさが加わる。
何より部員全員が描かれるようになったことで、北宇治吹奏楽部全体としてのドラマがより具体性を帯びるようになった。
このモブ部員達への設定付与が、ユーフォという作品の面白さを物凄く引き上げてくれたんじゃないかと。
まあ強いてデメリットを挙げるなら、"モブ"がいなくなったことで抽象的な描写が出来なくなったことでしょうか。
例えば原作だと香織・あすかの二大巨頭の"信者"的な部員がいっぱいいる的な設定があったけど、
具体的に皆の顔が見えるようになったアニメだと香織には優子一人がキャーキャー言ってる感じだし、
あすかも、部の支柱なのは分かるけど原作ほどは絶対的存在感が無い気がする。
あとは、みんな愛着がわくようになった分悪者にしづらいから、マイナス方面の描写を顔の見えないモブ部員に押しつけるみたいなのが出来なくなった*3のもあるかな。
でも、安易に悪者を作るでなく"みんないい子"の中でもちゃんと揉め事を展開出来ていたのが、逆にリアリティを助長させていたところもあるし、
トータルで見ると、やっぱりモブ部員たちの個性化は圧倒的にメリット大きかったなあと。

あと、シナリオ的作画的都合もあってか、原作と比べてアニメでは吹奏楽部員の人数が削減されています
原作だと、北宇治吹奏楽部の部員は81名。これに対してアニメは64名。(共に葵out、希美inの状態での人数)
この部員数削減における一番のストーリー面への影響としては、
原作だとコンクール落選メンバーも30人近くいるから、彼女たちは彼女たちで少人数編成のB部門コンクールに出場し、金賞を獲得するのですが、

アニメだと落選メンバーは10人のみのため、コンクールメンバーをサポートする役割に専念することになりました。
まあそこまでメインのシナリオ展開に違いが生じるわけでもないんですが、
B部門どうこうよりも、落選メンバー=サポート役って方が説明が少なく済んでわかりやすいし、
チームもなかの仲良し感好きだし、「葉月=チューバ=支え役」というシナリオとのリンクにもなったので、14話見るとこうして良かったんじゃないかなーと思いました。
一方で、原作だと人数の多いパートにいる香織と晴香が2年生の時は実力者ながらAパートメンバーにすら入れなかったという設定が、
アニメだと部員数削減の関係か無くなってしまったことなんかは、
「香織に報われて欲しい」という優子の動機の説得力が原作よりも薄れちゃった感じがしてちょっと勿体無いなと。

"久美子の外"の視点

2、3巻のプロローグでみぞれあすか視点の回想が入るのを除いて、
原作3巻の物語は全て久美子視点で進行し、久美子が見聞きしたことだけが描かれています
(それだけに、久美子以外の視点での物語が綴られる短編集が貴重だったり)
それを元にしたアニメもやはり、久美子の関わるシーンが大半を締めてはいましたが、
合間合間に、原作にはない久美子以外のキャラクター達のオリジナル会話シーンが追加されていました。
これによって、原作よりも群像劇としての面白さがグッと増したように思います。

特に象徴的なのは、滝先生来襲からの部の混乱時に3年の重役コンビ・晴香&香織が対策を相談していたシーン
原作だとあの辺の展開ももちろん、1年生の久美子の視点でしか描かれないわけですが、
アニメではより流れの中心にいる彼女たち3年生の悩み、行動する様が描かれていたことで、
より北宇治吹奏楽部全体の問題としての面白さを実感できるようになっていたよう思います。
というか晴香と香織のコンビって、実は原作だと本編三巻+短編集を通して一言も会話を交わさない、何の繋がりも無い組み合わせだったり。
それがアニメだと完全オリジナルの描写だけで、あんなお互いを理解し支え合う良き友人っぽい関係になっていたわけで…w
実際、この2人が会話するシーンは久美子が絡まないシチュエーションがほとんどで、
原作にはなかった、久美子の視点の外で動いていたもう一つの物語って感じになっています。
たぶん、あすかがああいう性格の関係で、晴香視点の相談シーンを追加するにあたり相手として香織が適任だったのと、
原作だとあすか&香織コンビが強くて晴香だけ浮いてる感があるので、香織晴香ラインを結んで三人トリオ感を出したかった…って狙いもあるのかな。
その通り、久美子の視点外からこの2人をくっつけたことで3年生の関係性がより面白いものになったし、
個人的には3年の組み合わせの中で晴香香織コンビが一番好きになったので、ホントこのコンビのアニオリ描写は効果てきめんだったなと。

他にも、2期11話のあすかと夏紀・麗奈と優子のシーンとか、
久美子の見ていないところで物語が進み、関係性が育まれている描写は非常に価値のあるものが多かったように思います。
さらに久美子自身についても、アニメで第三者視点のカメラから映し、
外から久美子を見るような形で描写されるようになったことで、
基本読者と目線を合わせて原作の時と違う、客観的に見たらこういう子だったんだなーという個性や魅力が見えやすくなった面があるような。
音や絵がつくこと以外の、小説とアニメというメディアの違いによる影響として、
この視点の違いがもたらした産物は非常に大きいものだったのではないかと。

久美子と秀一


原作→アニメの"改変"として、たぶん一番よく語られてるのが久美子と秀一の恋愛描写の削減ではないかと。
原作だと本編ラスト、卒業式のシーンで久美子がイタリアンホワイトの髪飾りをしていて、秀一と恋仲になったことをあすかに看過されるというワンシーンがあり、
その後短編集で、実際に秀一が久美子に告白して2人が結ばれる決定的なエピソードが描かれました。
しかしアニメでは短編集の告白シーンが収録できなかっただけでなく、
付き合い始めた証拠だった髪飾りを付けてなかってたり、
そこに至るまでの積み上げとしてそれなりにあったはずの会話シーンもかなり削られてたりで、結局2人の関係は有耶無耶なまま終わっちゃいました。
「1期が"百合アニメ"として受けちゃった側面もあることだし、2人をくっつけると荒れそう…」的な事情を抜きにしても、
あの尺が苦しい2期の中で、原作のどこを削るかって状況で本編にそれほど影響の無い久美子×秀一成分になるのはまあ妥当な判断だと思います。
しかしそもそも原作だと1巻の時点で久美子がかなり秀一を意識していたのが、アニメ1期だとあのそっけない感じになってるので、
2期を作るにあたってどうとかじゃなく、最初からここは変えるつもりだったんでしょうね。

アニメ久美子のあの良くも悪くも秀一を家族的なカテゴリーに置いての塩対応から、
プレゼント事件や友達の押し売りもあって、最終話で異性として意識し始めるように…という描かれ方もあれはあれで好きなんですが、
アニメの久美子がクッソ可愛くて、実際6話のお化け屋敷でちょっとラブコメしてたところとか最高だっただけに、
この久美子が原作通り秀一にドキドキしたり、秀一絡みで露骨に嫉妬や独占欲を見せたりする姿を見たかったなあという心惜しさも。
原作通りの秀一ラブ描写をしちゃうと、アニメ久美子の根本的な魅力が揺らいでしまう危険性もあるかもですが。
あと、久美子を文化祭デートに誘わせるためのお膳立てを麗奈がしてあげて、秀一が麗奈に頭が上がらなくなる…みたいな原作の関係性が好きだったので、
その辺の話が無くなったアニメだと、逆に麗奈が秀一の邪魔してるみたいに捉えられちゃったのもちょっと残念ですね。

久美子と麗奈


一方、逆にアニメの改変によって逆に強化された関係といえば、やはり久美子と麗奈の主役コンビでしょう。
耽美的な演出やオーディション前の"愛の告白"とかで、大吉山事件以降の2人のイチャイチャぶりが濃くなったのもそうですが、
大きな変化としてはその"前"、関係性が出来上がるまでの過程の方が象徴的ですね。
原作1巻だと物語開始時点の久美子は「本気で全国行けると思ってたの?」発言をそこまで引きずるでもなく、
「梓」「葉月」「緑」などと呼ぶ他の友達と同様に、「麗奈」と名前を呼び捨てできる程度の関係は一応既に構築されている。
それが、大吉山の件でいきなり急接近して、普通の友達からステップアップして一番の相棒になるという展開でした。

一方、アニメだと久美子は「本気で〜」発言をめちゃくちゃ意識して麗奈に苦手意識を抱き、
麗奈がいるからと入部を避けようとしたり、部の目標の多数決でも原作と違って麗奈を気にするあまり挙手できなかったりするほど。
「葉月ちゃん」「緑ちゃん」と違って「高坂さん」という呼び方なあたりにも、その距離の遠さが伺い知れる。
そこから、「新世界から」「ご清聴ありがとうございました」「黄前さんらしいね」等々印象的なアニオリシーンで徐々に距離を詰めていき、その積み上げが大吉山のシーンで爆発。
以後、女友達で唯一「麗奈」と呼び捨てにできるほどの特別になるという筋書きでした。

このマイナスからスタートしてどんどん縮めていくドラマティックな展開と、
呼称設定の変更でより"特別な存在"であることを明確にしたことで、アニメでは2人が親友・相棒になる過程に大きなカタルシスが生まれたわけです。
2期以降の2人のシーンはちょっと百合色強めつつも基本的に原作通りな感じなんですが、
1期アニオリでのこういう大幅な積み上げの上に成り立っていたから、これも一つ一つのインパクトが原作よりも強まっていたような。
結果的に、「ユーフォといえば久美子と麗奈の絡み」的な声も少なからず聞こえてくるし、
作品全体、特に1期は「久美子と麗奈の物語」という一つ大きな芯が出来上がったので、ここの繋がりはホントアニメで物凄いことになったなあと。

1期の大幅アレンジ

原作1巻部分にあたるアニメ1期では、
基本的な筋書きは概ね原作そのままではあるものの、
非常に多くのシーン・エピソードが追加されたりして、けっこう大幅なアレンジが加えられています。
前述した晴香&香織など久美子の視点外のシーンや、久美子と麗奈のシーンもそうだし、
久美子葉月緑輝の低音トリオが仲を育んでいく様子や、吹奏楽部の練習シーンなんかもかなり補強されてますね。
さらに、6話(葉月が合奏の喜びに目覚める回)、12話(上手くなりたい!回)なんかは一話単位で大半がオリジナル
OVA14話(チームもなか回)は完全にアニメオリジナルのシーンだけで構成されてたりします。*4
3つとも好きなエピソード、特に12話は1期の中核ともいえる話だと思ってたのでここがほぼオリジナルなのはビックリでした。
先にアニメから入っちゃったせいもあるんだろうけれど、
原作の1巻は全体的にダイジェスト的にサクサク淡々と進んでいっちゃう感じがして、
短期間の出来事を焦点に、濃密な心情描写や人間関係の機微を描き出した2・3巻と比べると面白さが一段落ちるように思いました。
それが、アニメだと2期と甲乙付けがたくなるほど1期部分が面白くなったのは、
アニメの数々の追加描写が、原作のやや物足りなく感じる部分をいい具合に補って、
久美子が入学してから新天地に溶け込むまで、北宇治吹奏楽部が生まれ変わるまで…という4ヶ月単位くらいでの長いスパンの物語を物凄く濃密なものにしてくれたからじゃないかと。

そんな感じで、アニメ1期のオリジナル描写はほとんどが原作に付加価値を与えるもので、
素直に絶賛できるものばかり……という感じなんですが、唯一賛否割れそうかなあと感じたのがトランペットソロオーディションのくだり

アニメだととにかくデカリボン優子先輩が大暴れしていた印象が強いですが、
原作だと優子は大勢いる香織信者の代表として、麗奈と衝突する程度の位置づけでした。
その後は部内が微妙な空気のまま日々が流れ、コンクール前日に突如香織が再審査を懇願。
そして2人の演奏後、例の「あなたが吹きますか?」のやり取りに至るという流れでした。
それが、アニメだと優子が一人大奮戦することに。
麗奈だけじゃなく滝先生もいる前で一発かました事でより問題が大きくなり、
その収束のために滝先生側からの再オーディション提案を引き出し、そこで麗奈に八百長を頼む。
部員からの拍手投票を行うオリジナル展開でも意志を貫き、最後に原作通りの形で香織敗北が決まるとど派手に泣き崩れる。
原作だと香織と麗奈の2人中心のエピソードだったのが、アニメだとそこに優子の物語というもう一つ大きな軸ができたように思います。
優子の視点が加わったことや、沈黙の部員投票展開なんかはエピソードにより深みを与えてくれましたが、
一方で優子がちょっと印象的に悪目立ちしすぎた感もありますね。
あと、アニオリの部員投票で久美子が日和見主義から一歩抜け出したのは、この話単体だと凄く良い展開だったんですが、
後々3巻のvsあすかで、初めて久美子が積極的に踏み込むという原作の前提を崩しちゃったりもしてるんですよね。
まあ、アニメ1期と原作2・3巻制作は確か同時進行だったらしいから、しょうがない面もあるんですけど…。

2期の足し引き

一方、原作2・3巻と小説二冊分の物語を消化した2期では、
1期と違ってとにかく尺がギリギリいっぱいという感じで、けっこう原作のシーンが削られていたりします。
エピソード単位でバッサリカットされたのは、前述の秀一との恋愛要素に加えて、
・関西大会における他校(主に大阪三強)の事情
吹奏楽部員達の進路の問題
あたりでしょうか。まず他校の事情についてですが、
原作では関西大会を突破する為の問題として、全国常連・大阪の三大強豪校の壁という話がクローズアップされます。
いずれも相当な難敵で、久美子たちはそのうちの一つ、明星工科が顧問交代の影響で弱体化しているという可能性に縋っていたのですが、
北宇治の直前に演奏した彼女たちの演奏が例年通りのハイクオリティだったので、その淡い期待はポッキリ折られる。
演奏前に香織先輩がやや諦めムードだったのも、こういう背景があったからなのでした。
結局、北宇治の後に演奏した三強の一角・秀塔大付属のソロ奏者にミスが起きたことが響き、わずかな差で北宇治が最後の一枠をもぎ取る結果に。
「北宇治が奇跡の演奏をしたうえでなお、このくらいの幸運が重ならないと関西は勝ち抜けない」というリアリティ重視でこういう展開にしていたんでしょうけど、アニメではこの辺の話はほとんどノータッチでした。*5
現実的な説得力の追求とか、敗者の存在を描くことは好きなんですけど、
アニメだと絵と音がついてより"北宇治の奇跡の演奏"自体が説得力を増しているわけだし、
甲子園で致命的なエラーとか見るのが辛いタイプの自分としては、そういう"戦犯"的な光景を挟むと演奏のカタルシスに水を差された気もするので、まあ削って正解だったんじゃないかなと。
もう一つ、進路の話は全国大会・三年の引退が近づき、
久美子の周りでも麗奈が海外へ音楽留学するとか、緑輝が服飾系の学校に進む、久美子や葉月はまだ将来像なんて見えない…みたいな卒業後の進路にまつわる話がポツポツあったんですが、この辺もバッサリカットされてました。
これもまあ本筋にそこまで影響でない話だし、優先度的に後回しになったのは妥当では。

逆に、そんな尺が無い中でもオリジナルシーンを多く加えて補強したエピソードが、

主に11話まわりの麗奈と滝先生のエピソードと、

黄前姉妹の話全般。
結果2、3巻それぞれのメインだった南中カルテットとあすかの話に加えて、この2つが2期全体における中心的なエピソードという感じに。
特に黄前姉妹の話は劇的なシーンが多く追加され、12話では原作でのあすかを差し置いてトリを飾るなど破格の扱いでした。
姉妹の話そのものとしても良かったし、
久美子の音楽の原点としての姉のエピソードを強化・強調することはその後のあすかの話や、
何より久美子自身の物語により深みを与え、作品全体のテーマ性がより固まる結果に繋がったように思います。
個人的にも前半の記事で書いたように、この姉妹の話が2期で一番好きなエピソードにまでなったので、ここに注力してくれたのはホント好判断だったんじゃないかと。
2期は秀一まわりのカットと、あの狙い気味な演出も相まって、「久美子と麗奈の百合的な方面に媚びた」みたいな声も聞こえますが、
原作におけるそっち方面でのおいしいエピソードもいくつか削られてたり*6しますし、
2期においてアニメスタッフがそれよりも何よりも重視したのは黄前姉妹の話、そしてそこから繋がる久美子と吹奏楽ユーフォニアムの物語だったんじゃないかと思います。

あとは、最終回の卒部会のシーンも完全オリジナル、あすかとのラストのやり取りも原作より盛られていて、
全国大会後のエピローグが数ページで終わる原作よりも、最後の余韻をより深めてくれていて良かったですね。

大きな枠組みとしてはそんなところで、
以下、削減・追加・改変されたシーン個別で印象的なものに、ここが良かったこととか残念だったとか適当につっこんでいきます。
〇原作→アニメで削減されたシーン
・久美子とみぞれが2人で居残り練習をしているシーン
原作では久美子とみぞれは最後の2人になるまで熱心に居残り練習をしているという設定で、
そうした2人きりの時間を過ごしていたことが、
あのみぞれが久美子に多少心を開いて本音を打ち明けてくれた理由にもなってると思うので、その辺の絡みがなくなっちゃったのはちょっと残念。

・1年前に希美が退部した際の、あすかから忠告

アニメ2話の回想ではあすかが希美の退部を引きとめようとするようなニュアンスの言葉までで切られていましたが、
原作ではその後、「きっと希美は戻ってきたくなるけれど、その時希美の存在が部にとってマイナスになるなら阻止する」という忠告が続きます。
この台詞を削ると、なんで希美が"あすかの許可"に拘るのかがイマイチ伝わんないよなーと。
しかし後々あすかメインのエピソードになった際、
「関西大会進出後、進藤パパに演奏を聴いてもらえる可能性に気づいから初めて部の利益に拘りだした。だから希美の復帰も阻止した」という話になって、
そしたら、1年前の希美の退部時点で部のプラスマイナスどうこうという発想が出てくるのは違和感が生じるから、後々の脚本との整合性のためにあえて削ったのかと合点がいきました。

・希美へのトラウマをみぞれがあすかに相談していたこと
原作ではみぞれが自らあすかに相談していたシーンがあり、故にあすかが二人の間の問題を把握していたということになっています。
みぞれから相談を受けた上で、という前提があるとあすかの希美復帰阻止にもより妥当性が出てくるし、
別パート、しかもあんな難しい子からも頼られるあすかの存在感や、
そのあすかの退部問題の際、みぞれから「待ってます」という伝言が出てくる説得力が薄れちゃったなあと。

・1年前の3年vs1年時、夏紀の「性格ブス」発言の余波について

アニメでは流石夏紀先輩かっけーす、な印象を抱くところだけれど、
原作だとこの発言のせいで、3年に低音パートが目をつけられて梨子が傷つけられ、最終的にあすかが何とか上手く収める…というわりと洒落にならないことになっていて。
後藤先輩が昨年の話題で露骨に態度悪くなるのも、この時の話を蒸し返して1年生や梨子に嫌な思いをしてほしくないからという思いからだったりします。
夏紀があすかを特別視しているのはこの時お世話になったからというのが少なくあるだろうし、
何よりこの話が無いと、後藤と夏紀の微妙な距離感の背景とか、
後藤がこの話題で不機嫌になることへのフォローがないままになっちゃうので勿体無いなあと。

・みぞれの「気持ち悪い。こんなふうに友達に執着するなんて」という自己分析
希美への異常なまでの傾倒を、当のみぞれ自身がこう認識しているというのがなかなかショッキングな台詞でした。
アニメで省かれたのは、その後の希美とのやり取りの変化とかを見てもまあ意図はわかるんですが、
この印象的な台詞が無かったのはちょっと寂しくもある。

・のぞみぞれ問題が丸く収まったあとの、あすかの「今回のMVPは優子」発言。
2巻の話は報われなさも含めてとにかく優子の奮闘が印象的で、
そこを他でもないあすか先輩がこう評価してくれるのが嬉しいので、このセリフ無いのは個人的にちょっと残念。

・関西大会で北宇治の演奏終了後、他校の「ダフニスとクロエ」を南中カルテットが並んで聴くシーン
(「ダフニスとクロエ」は原作で南中が銀賞に終わった因縁の曲、アニメでいう「ダッタン人の踊り」と同じポジションです)
2巻のエピソードの渦中に南中出身者4人が仲良く並んでコンクール鑑賞をして、
そして「今はこの曲を素直に聴ける」と克服した様子を見せる、南中問題のエンディング的なシーン。
アニメでも、ダフクロ改めダッタン人を克服するシーンは、
北宇治演奏の直前にこの曲が流れるも揺れないみぞれ、という形で取り入れられていましたが、
個人的には原作の展開の方が大団円感あって好き。

・全国大会当日の朝、後藤が夏紀に「来年はお前もAで出ろよ」というシーン
1巻から続いていた、夏紀と後藤の間の微妙な軋轢が解消され、
嬉しそうに見守る梨子も含めて素敵なシーン。
低音パートの結束がさらに深まる良い場面だし、夏紀と後藤の関係いいなあと。
前述の「性格ブス」事件含めて、この2人のエピソードがバッサリカットされちゃったのは個人的に一番惜しいところかも。

・みぞれのグータッチが優子直伝だというエピソード

すっかり希美中心の行動様式になったみぞれだけど、
ちゃんと優子との友達関係も続いてるんだなあと確認できる微笑ましいシーンだったんですが、
アニメではのぞみぞれ復縁以降、みぞれと優子の関わりを匂わすシーンがバッサリカットされちゃって、
一方で希美とみぞれの絡みは増えたもんだから、優子先輩の保険感が増してしまいました。
希美-みぞれよりも優子-みぞれの友達関係の方が好きだった私としてはちょっと残念。

〇原作→アニメでの追加シーン
・久美子が母親に太ったと指摘されての「なんてこというんだー!」

可愛い。その後のちょっとふてくされたような態度も好き。

・3話での、のぞみぞれ問題についての夏紀と優子の口論。および優子が夏紀を気遣うセリフ

2巻のエピソードでは元々対立関係にある夏紀と優子が、
中心人物となる希美側とみぞれ側にそれぞれついて、2-2の構造になるというのがとても構図として美しかったので、
サポート側につくこの2人サイドのドラマを増量したのは話により厚みが出て良かったなーと。
ガバガバな盗み聞きをしてる久美子が可愛いという副産物もあったし。
あと、原作では夏紀と優子がああいう犬猿の仲だって設定は1巻では出てこなかったんだけど、
アニメでは1期からこの2人の関係性を仕込んでいたから、原作よりもスムーズに2-2の構図に移行しやすくなってる気がしますね。

・あすか退部騒動における、晴香・香織(+あすか)での3年生間のやり取り

あすかの退部という大事件において、
彼女と最も近しい立場にいる2人の当時の心情等が補足されてたのは良かったです。
大好きな友達として必死に連れ戻そうとする香織と、部長としてあすかが戻って来ない時の覚悟を決める晴香の温度差とか興味深かった。
1期の時もそうだったけど、「久美子が見ていないところでの、上級生だけの視点」というのはアニメの大きな収穫じゃないかと。

・「久美子はユーフォっぽい。あすかはユーフォっぽくない」というセリフ

久美子のキャラクター造形にも貢献してたし、
「あすかが久美子を特別視する理由」に説得力を与えて、ドラマに深みをもたせた面でもいいオリジナル台詞だったなと。

・スランプ気味の麗奈をフォローする優子

原作よりも派手に因縁作っちゃったこともあってか、その後のこの2人の関係のフォローはアニメで増量されてました。
ここのやり取りもそうだし、
全国後の「来年は金賞取るよ」とか、滝先生への告白失敗後慰められるくだりとかもオリジナルだったはず。*7
この2人の関係は微妙なギスギス感の残る原作の方が生々しさはあるけど、アニメの方がエンターテイメント的な熱さがあって好きだなあ。

・全国の演奏後、3年生トリオが喫茶店に向かうシーン

やりきった後の、青春の終わり的な清々しさがあったし、
ただの仲良しこよしの友達じゃない3年トリオの関係に、
苦難の日々を共にしてきて戦友みたいな感じで一つ区切りがつくシーンとしても良いなあと思う。
久美子だけじゃなく、香織や晴香もあすか復帰に対して尽力していたんだから、
あすかが可愛い後輩久美子相手じゃなく、同級生相手だからこそ見せられる顔を見せて2人が報われるシーンは必要だったよなあと。

・卒部会のシーン

"その後"のエピローグ自体が盛られたの嬉しいし、
在校生が卒業生に「三日月の舞」を送るというシチュエーションも痺れる。
本作用のオリジナル楽曲として、この曲を作品の象徴にまで昇華していたアニメだからこその感動のシーンでした。

・3年生たちと在校生・先生との別れ

本筋でスポットの当たらない脇役部員一人一人のドラマにも区切りが用意されたし、
原作では描写のなかった、香織と優子の別れのシーンが描写されたのも素敵でした。スカーフ託すシチュとか王道でいいよね。
クライマックスの久美子とあすかの別れも、アニメの方が劇的に描写されていて、
特に「あすか先輩みたいなユーフォが吹きたい」という言葉を付け足したのは、
姉とあすかを通して、久美子とユーフォの関わりを描く2期のテーマ性を象徴する形になってて良かったなあと。

・黄前姉妹関連全般

一度衝突してから、昔の2人を知る秀一のフォローを挟んで歩み寄る麻美子。
「おねえちゃんと一緒にユーフォが吹きたい」という幼い頃を回想して涙する久美子。
互いへの姉妹愛を再確認して、ラストでは文通を始める展開。
アニメオリジナルのこの2人の描写はホント素晴らしいもの揃いでした。アニメ一番の収穫でしょう。

〇原作→アニメでの改変シーン
・4話、みぞれと希美のやり取り

アニメではわりと素直に感動的だった2人の復縁シーンですが、正直原作だとそんな印象はとても先立たないようなシーンでした。
「特別な友達」の希美への強い思いを重く抱えていたみぞれと、
「沢山いる友達の一人」のみぞれの思いに対して、無頓着で軽い希美の残酷な温度差がもっとハッキリしていて、
その様子を見た読者目線の久美子が、苦々しい想いを抱くという描写もありました。
また、一方でみぞれも希美と向き合う時は不安げに優子のスカートの裾をつかみ、
希美から前向きな言葉を聞いた瞬間その手を離してしまうという描写があり、同時にみぞれと優子の温度差をも表現していたり。
しかしアニメでは希美はもっと真剣にみぞれを労わり、みぞれも優子にすがることなく自ら希美に向き合って、
結果原作で前面に出ていたエグみがかなり軽減され、感動色が浮かび上がってくるような形となりました。
アニメのもこれはこれでいいシーンになったとは思うんですが、
ドラマ的な厚みとか、胸に残るものの重さでは原作に軍配が上がるかなあと。
あと、あすかの「優子は保険」発言はアニメのシチュだと伝わりづらくて浮いちゃった感あるのが勿体無い。

・5話、関西大会演奏前の香織の言葉

原作だと香織が麗奈に対して「麗奈がソロだからここまでこれた」と感謝を告げるシチュエーションでしたが、
アニメだと優子達に感謝を告げ、逆に優子に「一緒に全国へ行こう」と促されるという形に変更されていました。
原作、アニメそれぞれ感慨深さがあってどちらも捨てがたいシーンなんですが、
アニメだとあの最高の演奏シーンの前だから、ダウナーな形だけで終わらずポジティブに反転させたのが良かったし、
1期の改変でアニメの優子はあれだけ香織に尽くしたのだから、優子との絆の方に焦点を当てたのは正解だったんじゃないかと。
卒業式の別れのシーンとか見ても、
原作だと優子の一方通行的な崇拝感あった香織への思いが、アニメだとだいぶ報われた感じがして嬉しいです。
香織-麗奈がちょっぴり弱くなった一方で、香織-優子、優子-麗奈ラインが原作よりも強くなったから、
Tpパートは原作だと香織と麗奈の関係中心、アニメだと2年の優子を挟んでの3人での関係性メインって印象を受けますね。

・6話、久美子と秀一のお化け屋敷デート

原作だと麗奈が2人で来いとアシストして一緒に行く事になり、秀一が照れながら久美子を迎えに行くみたいな流れだったのですが、
アニメだと恋愛成分カットのあおりを受けてm別々に来た2人がたまたま出くわすみたいな形になりました。
アニメのかわいい久美子がラブコメしてるところ見たかったなーというのと、
アシストしてくれた麗奈に以後頭が上がらない秀一、みたいな原作の関係性が好きなので残念。

・7話、晴香と優子のやり取り

「ついてきてほしい」という晴香覚悟の演説に対して、「みんな本気なんですよ」と応えた優子。
そんな優子に対して、アニメでは夏紀がいつものように茶化して雰囲気を和らげるのですが、
原作では、香織に対する傾倒をダシにからかうのは晴香自らの役割でした。
安定のなかよし川だし、次世代北宇治吹奏楽部の光景感あるしでアニメの方もいいんですが、
現部長と次期部長の絆を感じるシーンとして、個人的には原作の晴香とのやり取りが良かったなあと。アニメの晴香だとああいうからかい方は似合わないのもあったんだろうけど。
原作の晴香は希美辺りを筆頭に、露骨に部員達から軽んじられてる感があるので、
そんな中晴香にリスペクトを示す優子の存在は貴重で、だからこそ次期部長になる系譜にもドラマ性があったり。

・7話の晴香演説→バリサクソロ、および10話の姉への悔恨→あすか説得の流れ


どちらも原作と大きな違いがあるってわけではないんですが、
同じ話数の中にパッケージングされ、
さらに両者を密接に繋ぐシーンを加えることで、
前者を受けての後者っていう流れがより明確、かつ強固になっていたなと。
その分アニメの方が後者のシーンにおけるカタルシスが大きくなっていたように思います。

・10話、あすかの復帰シーン

アニメだと久美子とあすかで「おかえり」「ただいま」という流れでしたが、
原作だと低音パートはじめ部員皆に取り囲まれ、中でも夏紀からの暖かい「おかえり」でついに涙を流して「ただいま」…って流れでした。
アニメは久美子とあすか2人の関係性に絞りたかったんだろうし、実際アニメの方が2人の関係性はよりドラマチックになっていました。
一方で、原作だとあすかの復帰については久美子もあすかも最後まで「夏紀が吹けなくなる」ことが一番引っかかっていて、
最後に夏紀の暖かい歓迎で円満解決!と、夏紀含めたユーフォ3世代のドラマって感じだったので、夏紀の影がやや薄くなっちゃったのは残念。
でもこのシーンを改変したおかげで、アニメでは結局最後まであすかが涙を見せることがないままだったのは好みだったり。

・滝が亡き妻について語るシーン

原作だと久美子に対して語るシーンですが、アニメでは麗奈が聞き出す形に。
よりドラマの渦中にいる麗奈に対して語って聞かせるシチュエーションの方が展開の必然性に説得力があるし、
どこまでも真っ直ぐ挑んでいく麗奈のブレなさを示した点でも、アニメの方が好きですね。

2期における原作→アニメの変化による全体的な好みとしては、
原作2巻部分は、人間関係がより複雑かつ胸に響くエグみがあった原作側に、
3巻部分は、姉妹問題の補強などで全体的なテーマ性がしっくりしたアニメ側に軍配が上がるかという感じ。
削減・改変されて残念だった箇所が2巻・2年生組エピソード中心で、
逆に増量・改変されて良かった箇所は姉や3年生絡みとかだから、
限られた尺の中でアニメは前半の2年生エピソードより、後半のあすかエピソードの方に力を注いだのが反映された形でしょうか。

キャラクター語り

主要キャラ+脇役から気になるキャラをピックアップして、
原作とアニメの違いとか、ここが好きとかいろいろテキトーに語っていく。

黄前久美子

ブッチギリお気に入りNo.1の主人公様なのだけれど、
久美子についてはもう前の記事でだいぶ語ったからいいかなあ…w
読者と視点を合わせやすい「等身大の高校生」、話を進めるのに適した「優れた聞き手」であり、
そんな彼女が自らの力で充実した青春を勝ち取っていく様が眩しい、とても憧れる魅力的な主人公でした。

媒体の違いによる影響とか、エピソード増量とかあってアニメで物凄く化けたキャラだと思いますが、
唯一原作と比べて残念な点としては、
秀一への恋心描写とかが無くなった影響か、原作で見られた恋する乙女な一面と、あと嫉妬心が薄れちゃったことかな。
葉月が秀一に振られたと聞いて内心上機嫌だったり、
麗奈と緑輝がいつの間にか距離縮まっててなんか面白くなかったり…みたいな原作の久美子の描写好き。

あと、アニメだと息を吐くように失言しまくるのが印象的だったけど、
原作だと特にそんなキャラ付けはなく、うっかり喋っちゃうみたいな描写も数えるほどしか無かったと思います。
そもそも、アニメだと失言扱いされてる描写されてる台詞が原作だと普通に流されてたりするしね。
ただ、原作だと読者視点の進行役みたいな感じだから気にならなかったのが、
アニメで外から見ると、この子めちゃくちゃ直球の言葉ぶつけていくなーって風に映ったりするんですよね。
ならいっそのこと、"そういうキャラ"として個性にしちゃったのは面白い試みだなあと。
わりと薄味なキャラ付けのなかで、「失言系ヒロイン」っていう代名詞が一つできましたし。

優子夏紀、みぞれ希美と次期3年の部長副部長・実力者ツートップとコネクションを築き、
行く末はもう次代の重役就任待ったなしって感じですが、
あんまり部長って柄でもなさそうなので、
カリスマ性のある麗奈か1年の学年代表に選ばれた秀一辺りを部長に添えて、
久美子はあすか夏紀の系譜で副部長のフォロー役・影の支配者的ポジションに置くってのが一番しっくりくる気がします。

高坂麗奈

じわじわ魅力が沁みてくる久美子と好対照に、切れ味鋭く分かりやすい華のある準主人公。
あがた祭り以降どんどん幼い素顔を見せるようになったり、2期ではコメディにも対応し始めたりでどんどん無敵になっていった印象だったけど、
改めて見ると、序盤の謎多きミステリアス美少女時代もいいなあと。

音楽的才能だけじゃなく、容姿、学力、体力、家庭環境などあらゆる才能に恵まれていて、
そのうえで他人に容赦なく正論や実力主義を突きつけるという結構賛否の割れそうな性格をしていますが、
そのせいで衝突したり苦労したりしても真っ直ぐな姿勢を曲げない、ブレない精神性が好きですね。
人間関係の表現が生々しい作品だったり、
そこに翻弄される久美子の目線で見るから、尚の事麗奈の"ブレなさ"は眩しく映りました。
才能面だけじゃなく、そういう精神面も含めて正統派な主役タイプだよなあと。

あと、同じくいろんな能力面に恵まれながら、
家庭環境とコミュニケーションの取り方辺りが正反対で、
かつ「特別になりたい人」と「特別視される人」という対比もある田中あすかとの関係性に注目していたんですが、
結局あんまり関わりないまま終わっちゃいましたね。
まあパート別でそんなに絡む要素もないしそりゃそうなんだろうけど、
こうも面白いコントラストになってるのに、あんまり活かされなかったのはちょっと残念。

加藤葉月

葉月ちゃんはかなりアニメ1期で救済されたキャラじゃないかと思います。
原作だと、特別大きなエピソードもなく、
短編集で補足されるまでは久美子視点の話しかないので、いつのまにか秀一に惚れてフラれて、
それ以後は、緑輝と違って脇役ポジションだと存在感を出せないからただの賑やかし要因Aみたいな感じに…。
意地悪な見方をすれば、初心者ポジションと、久美子の嫉妬心を煽る役割が欲しいためにとりあえず宛てがわれたみたいなキャラにも感じました。

しかしアニメ1期だと、久美子や緑輝と友達になる過程、
吹奏楽にのめりこんでいく過程、秀一に惚れて振られて立ち直る過程などが一つ一つ丁寧に肉付けされ、
さらには完全オリジナルの主役OVAエピソードでその辺を総まとめしてもらって、久美子・麗奈に次ぐ第三の主役といえるまで豊かなドラマ性を感じるキャラになりました。
結局2期だと原作同様目立たなくなっちゃうんだけど、
原作と違って、「1期でちゃんとやりきった後」って感じだったから、それほど不憫とかには感じませんでしたね。
というか葉月と緑輝の不運は、
アニメ1期で定番パターンにならって北宇治カルテットの4人が主役!って並べられたのに、
同時進行で制作されていたらしい原作2・3巻がそれぞれ2年、3年をメインに移行していく形になったせいで、
結果2期をアニメ化したとき、この2人主役組なのに空気すぎだろ!みたいになっちゃったことよね。
最終的に原作における重要度上位は、
久美子>麗奈≧あすか>滝先生≧秀一≧夏紀>優子って感じで、葉月緑輝コンビはその次点くらいじゃないかと思います。

川島緑輝

1年生組では一番原作とアニメでギャップあるキャラじゃないかと。
アニメだと同級生にも敬語使いで、これはこれでファンタジー感あって目立つ癒し系キャラだったけど、
原作だと敬語は使わず普通の友達感覚で喋ってくるし、
「ダサいデザインの衣装なんて着せられたら死んじゃう」とか、「高坂さんはおっぱい大きいからプールに誘おう」とか、過激な発言かポンポン出てきたり、
コンバスの演奏で負けたと思ったことは一度も無い。自分がいる限り、北宇治のコンバスが他校に負けることはない」という圧倒的強者発言が飛び出したり、
いろんな意味で作中一エキセントリックっぷりを披露していて、ちょっとビックリ。
原作の緑輝は、なるほど「サファイア」なんて名前を付ける親から生まれてきたのも、
それを恨みつつ親との仲自体は超良好なのも頷けるような、強烈なパンチの効いたキャラクターでしたね。
自身がシナリオ上の問題に関わることは一度もないのに、最後まで強烈な存在感を放っていました。
アニメだとそういうアクの強いところはわりと取り除かれていて、
(おっぱい好きキャラはBD特典映像で回収されたみたいだけど)
アニメのふわふわした緑ちゃんも好きなんだけど、原作のあの凄みが幾分か薄れてるのはちょっと残念でもある。
緑輝の凄さがあんま目立つと、本来のカリスマポジである麗奈やあすかを喰いかねないという問題もあるんだけど。

吹奏楽に対しては実力もモチベーションもド安定で、ある意味誰より高い境地にいる存在。
その人柄から人間関係にも角が立たず、原作では卒業後の進路まで既に定まっていて、
あらゆる面でまさに"無敵"なキャラ。
でもそれ故問題が起きる余地もなく、彼女を中心とした問題というのも描写しづらいという面もある。
1期のOVAが葉月主役だったから、
2期では緑輝主役のオリジナルエピソードを作ってくんないかなーとか思ってたけど、
緑輝メインとなるとどうしてもシリアスな青春ドラマって難しそうで、コミカルに流れていっちゃいそうですよね。
ただ、そんな緑輝ですが、アニメでは一つ彼女を悩ませた事件が一つだけありました。
1期9話の、葉月の失恋に責任を感じて落ち込んで、あすかにバッサリ斬られるシーンですね。
原作だと、失恋事件を引きずって練習に身が入らないのは葉月当本人の役目だったんですが、
ただでさえ失恋直後で、その後もあまりいいところなし、
おまけに緑輝と違ってあすかの「使える子」カテゴライズに入ってるわけでもない葉月が酷評され、
しまいには「あの子B確定なのに、助けるメリット無いわ」とまで切り捨てられたりと、ちょっと葉月が悲惨で胸が痛くなるシーンでした。
それがアニメでは対象を緑輝に移したことでいくらかキツさが和らいで、
一方で無敵キャラだった緑輝にも試練と人間味を与えたり、
ウキウキでコイバナに乗っかっていったことにもフォローが入ったりと、
葉月にとっても緑輝にとっても、互いにプラスになる形になりました。
また、この件を通して葉月と緑輝の友情描写を深めたことで、
2人がただ久美子と麗奈がくっついた後の余り同士ってだけじゃなく、コンビとなる必然性も生まれてくる。
ここの改変は何気にめちゃくちゃいい仕事してるなあと、原作を後から読んで感心させられました。

塚本秀一

良くも悪くも、ヒロイン達の物語を邪魔しない程度に"普通にイイやつ"で、あんまり語ることのない秀一。
久美子からの恋心や恋愛描写・出番をカットされたことでアニメ最大の被害者みたいに言われていて、
確かにそこは可哀想だけれど、アニメの秀一の描写自体はそんなに悪かったとも思わないですね。
1期では「三日月の舞」の演奏に苦戦→乗り越えるというオリジナルシーンで演奏者としてのドラマが追加されたり、
2期では久美子姉との繋がりをオリジナルで追加されたことで、
トロンボーンを選んだことにドラマ性が漂ったり、姉妹問題絡みで久美子を影からフォローするという活躍もありました。
12話ラストで、団体行動を放棄して姉を追う久美子を見守る秀一の優しい目は、
原作・アニメ通して一番秀一がカッコよかった瞬間じゃないかと思います。

あと、実は原作だと新体制時に1年生の学年代表という重大なポストに就任していて。
久美子・麗奈・葉月・緑輝との比較だけで見ると、確かに秀一がチョイスされるのもまあ分からんでもないのだけれど、
アニメだとその他の部員達全員も描写されているから、
あの女子だらけで肩身狭そう空間で秀一がそのポジションなの?とか、
あの中に他にふさわしそうな子がいるのでは?とか思わずにはいられない…w

・中川夏紀

久美子や麗奈と人気トップを争うんじゃないかってくらい、
いいポジションでコンスタントに活躍して株価安定、大人気だったイメージのポニテ先輩こと夏紀先輩。
この人もけっこうアニメと原作で雰囲気の違うキャラで、
アニメが頼れるクールビューティ姐御肌って感じだったのに対して、
原作でも根はやはりいい子だけど、表向きはもうちょいお喋りで、リアリストの皮肉屋って側面が強かったような。
葉月の失恋に対して原作ではわりと冷たい反応だけど、
アニメだと心情を察して抱きしめるみたいなところが分かりやすい違いではないかと。

カッコよくて魅力的なのはアニメ、人間味に親しみをもてるのは原作って感じでしょうか。
凄く大人びて隙無く見えるアニメの夏紀先輩だけど、
だからこそ、貴重なお茶目な一面を見せてくれる優子とのやり取りが原作よりも存在感高まってる気がしますね。

・吉川優子

常に高いところで安定していた夏紀と対照的に、
最も低いところへ高いところへと、株の乱高下を経験したものと思われる次期部長。
1期の激しいバッシングから一転して、
2期、特に序盤では登場するたびどんどん評判が良くなっていくのが印象的でした。
正直私も見事にその流れに乗せられた口で、最終的には久美子に次ぐお気に入りキャラにまで出世してしまいました。

声優さんだったかがどっかで言ってたように、
別に優子の性格そのものが2期になって変わった、改心した…みたいなわけじゃないとは思うんですが、
ポジションが変わり、その見せ方が変わったことが大きかったわなあと。
献身的・情熱的・物怖じしない積極性といった彼女の特徴が、
1期だと結果的には崇拝する香織のために、暴走気味な行動に出て部に混乱をもたらすという形になってしまいましたが、
2期では献身の対象が繊細な同級生のみぞれに移ったことでその面倒見の良さが浮き彫りになり、
南中時代の挫折エピソードなどを通して、熱い性格が作中屈指のスポ根的ドラマ性につながるようになった。
「当たりは強いけど根は仲間思い」「誇り高い努力家」みたいなのは元々私の大好物な要素なので、
そういう側面が浮かび上がってくるに連れて、優子に惚れ込んでいってしまうのも時間の問題だったわけです。
献身がのぞみぞれ問題の解決に、積極性が部の沈黙を打ち破り引っ張っていけるリーダーシップにと、
2期では彼女の性格が、ことごとく部に好影響をもたらす形になったのも好印象に繋がってるかな。

あと2期の優子が魅力的に見えるのは、前髪が伸びたりと何気にキャラデザが美人路線に弄られてたのも大きい。
2期1話で「え、この子こんなに可愛かったっけ!?」とビックリして、1期を見返したらやっぱり前髪が伸びてましたわ。


香織の忠犬からみぞれの介護士へのポジションチェンジに合わせてデザインも大人っぽくしたんでしょうか。
デザインといえば、「デカリボン先輩」という呼名が定着するほど容姿にインパクトのあるキャラなわけですが、
原作にはあんな目立つリボン付けてる設定は特に無く、完全にアニメオリジナルのデザインなんですよね。
原作の優子は、香織にキャーキャー言ってる時以外はもっと厳しく堅いキャラの印象なんですが、
アニメだと泣いたり変顔したりといった表情変化の豊かさと、あのクソデカリボンとでだいぶファンシーな感じになったなーと。
2年は同じくアニオリデザインで「ポニテ先輩」になった夏紀共々*8
原作に設定画が無い故のアニメオリジナルデザインでかなりキャラの印象変わってそうな気がします。

・鎧塚みぞれ

みぞれは上2人と違って、原作とアニメでそんなに性格や言動に違いはないのですが、
やっぱりこういう口数少ないキャラは、絵が付いて表情で語る様子が見えるようになることで化けるわなあと。
原作のショートヘアーでの美人系設定から、アニメでロングヘアーの小動物系にデザイン変更されたのも大きいか。
ストレートな可愛さでいえばトップクラスのキャッチーさで、そら途中参戦組でも人気でるのも納得です。リード咥えてるのホント可愛い。

「希美と繋がっているために」吹奏楽を続け、
「希美に笑われないため、希美に褒められるために」練習を誰より頑張るという、
本編では終始、行動様式が希美ありきという尖りっぷりで、いろいろと将来が不安になるキャラでしたが、
3年卒業後の新体制吹部を描いた後日談「冬色ラプソディー」では、それだけじゃない一面を見せてくれて安心しました。
このお話では、"定期演奏係"として補佐役の久美子とともに定期演奏会の成功に向けて尽力するという主役級の扱いで、
信頼する友人として久美子や優子のことも見ていて、彼女たちへの気遣いも出来る様子であったり、
コミュニケーション能力は乏しくても、事務処理能力には優れ手際よく作業をこなしていったり、
希美との関わりを抜きにしても、ちゃんとみぞれなりに音楽・部活への拘りや情熱を持っていたり。
いろんな新しい一面が見えて、このエピソードでかなりみぞれへの好感度が上がりましたね。是非アニメの可愛いみぞれで見てみたい。

・傘木希美

実力も熱意もあり性格も明るくいい子だけど、鈍感気味でやや空気が読めず、無自覚に波乱をもたらす。
2年のカリスマ枠なんだけど、1・3年の麗奈やあすかとはまた違ったベクトルで問題児ですね。
ユーフォのキャラ、特に2年は相手の心情を慮る子が多かったので、希美の存在は余計際立って感じました。
のぞみからは重すぎる愛、夏紀からは憧れ、優子からは嫉妬…といろんな感情を向けられる一方で、
希美はみんな等しく「いい友達だよ」ってさらっと笑顔で言いそうなところとか凄く面白い。
あんまり人気が出るようなタイプでは無いだろうけれど、非常に興味深いキャラ付けで個人的にはお気に入りです。
9話で夏紀が大事な話してるところに、「もう終わったー」とか空気読まずに入ってくるところとか、
地味なシーンだけど「こいつ相変わらずだな…w」って感じで好きだった。

いろいろとドラマを作れそうなポジションだったけど、
復帰問題はなんやかんやみぞれの内面的な問題に落ち着き、
復帰後もみぞれの添え物みたいな感じで、イマイチ活かしきれなかった感があってちょっと勿体無い。
例えば復帰後のフルートパートの面々との関係はどんな感じかとか、
モブ相手だしいろいろと掘り下げづらいところとはいえちょっとでも描写してほしかったなあとか。
そこまで描かないとキャラとしてちょっとドラマ消化不良感あるよね。

ようやくコンクールに本格参戦できるのもそうだし、
順当にいけば次期部長に就任してただろうにゴタゴタがあって平部員に落ち着いてるみたいな立ち位置的にも、
いろいろとドラマを感じさせるものがあって、3年引退後の動向が一番気になるキャラかもしれません。
その部長や副部長の椅子に座っているのが、
南中時代は格下(?)で希美へ一方的な因縁を持つ優子と、
南中時代は吹部ですらなく、希美へ憧れを抱いて吹部の門を叩いた夏紀というのもこれまた面白いよね。
晴香とあすかまでとはいかずとも、
現重役より希美先輩の方がリーダーの資質がある! みたいな希美派が新一年生に出てきたりとか、
本人は望まずとも騒動の中心になったりして。是非とも波乱を起こして欲しいものである。
「部を離れた実力者がゴタゴタの末帰ってくる」という王道パターンのキャラだから、戦力としてのまっとうな活躍ももちろん楽しみで。
絶対的エースは麗奈のままとはいえ、3年の実力者ツートップは希美とみぞれだろうから、
来年は木管楽器の目立つ曲でコンクールに挑むとかだったら熱いですよね。それこそ「ダッタン人」でリベンジ! とか…。

・後藤卓也

アニメだとチューバカップルの片割れくらいの印象しかないけど、
原作だと次期低音パートリーダーとして、けっこう重要なポジションのキャラな感じがします。
前述した夏紀とのエピソードはじめ、梨子以外のキャラとの関係性がいろいろ削られちゃったのが残念です。
個人的には、秀一よりもよっぽど、アニメで一番損してるキャラじゃないかなあと思います。

原作では新3年生の役職会議のエピソードでは後藤の視点で綴られていて、
彼は優子部長には評価・納得している一方で、夏紀副部長には懐疑的な目を向けていたりします。
アニメだと夏紀がより爽やかに、逆に優子は大きな騒動を引き起こす形に改変されたことで、
視聴者的にはどっちかというと優子の方が疑問、夏紀には納得って印象を受けそうなものですが、
作中の人物的にはずっと熱心にやってきてリーダーシップもある優子より、やる気も実力も欠けていた夏紀の抜擢の方がそりゃおかしいはずですからね。
優子のような熱意ある人物を評価し、夏紀に対しては一貫して厳しい態度を取る後藤の視点は、
今まで「やる気ない勢」だった夏紀が久美子視点で好意的に描かれ、部の中心人物にまで上り詰めていくことに対して、
いい具合にマイナス方面からバランスを取ってくれる大事な存在だと思います。

・長瀬梨子

梨子先輩は原作でもそんなにドラマ的な面白みは無いキャラなんですが、
夏紀と優子のケンカップル的な関係性に対する仲裁役兼一番の理解者的なポジション取りが好きですね。
優子との表面的な仲の悪さも含めて、夏紀の副部長就任を訝しがる後藤に対して、
優子と夏紀の本質的な相性の良さを見抜き、いい体制だと説くのが梨子…という構図が良いなあと。
2年はどうしても南中カルテットが強いけれど、
後藤と梨子のカップルも巻き込んで、主要キャラ6人での関係性として見てもけっこう面白いと思います。

新体制ではなかよし川の間でバランスを取れる人材として、
3年の晴香あすかに対するアニメの香織みたいに、3番手のポジション(会計)に一番うってつけな人材じゃないかと。
まあアニメだと、夏紀優子どっちとも友人として接点がある加部友恵ちゃんとかでもアリな気はしますが。

田中あすか

終始存在感を放っていたユーフォ界のトリックスター
最初は愉快で話を動かすのに便利な良キャラくらいの印象でしたが、
1期7話くらいで闇が見え始めたところから、普段の態度も含めて底知れない感じにゾクゾクさせられました。
なんだかんだ心の綺麗な美少女揃いの中で、ゾッとするような冷徹さを見せるあすかの存在は物語に緊張感をもたらしてくれるとても重要なものでしたね。
田中あすかのいないユーフォの物語はかなり刺激に欠けるものになってたんじゃないかと。
ついに自身の問題に踏み込む3巻のエピソードに入ってからは、
自分のエゴで動いてましたって告白とか、"大人すぎる"ことが逆に欠点になる展開とか、人間味を帯びていく様により好感を抱くようになりました。
久美子との師弟・姉妹的な関係性はもちろん、
アニメだと晴香・香織の3年組との関係も、綺麗な決着はつかないことも含めて素敵な形で精算されたのも良かったです。

全体的にマイルドに和らげたアニメの作風の関係で、原作よりも言葉の切れ味がやや失われ気味だったのが残念でしたが、
逆にアニメで良かった点は、夏紀らにあたたかく迎え入れられて涙を流すくだりが無くなったことで、
結局最後まで涙を見せない、道化的なキャラクター性を貫き通したこと。
原作のそのシーンも「あのあすかが涙を…!」的な感動の展開なんですが、
アニメはそこを無くしたことで、久美子の説得に揺さぶられつつ泣き顔を見せまいとしたシーンの尊さが高まったし、
最後まで底を見せてくれない、あすかの凄み的なところに磨きがかかったんじゃないかなと。

小笠原晴香

ユーフォ1涙の似合う、優しい優しい我らが部長。
たぶんアニメで久美子の次に化けた・日の目を見たキャラじゃないかと思います。
というか先にアニメから入ったので、原作での部長ポジションとは思えないほどの扱いの悪さにビックリしました。
原作だとそもそも出番が少なく、他キャラとの関係性も薄くてかなり影が薄い。
見せ場はあすか退部騒動時の演説が唯一くらいじゃないかってくらいだし、
キャラの関係性は1年がメイン4人と久美子秀一、2年が南中カルテットと後藤梨子、3年があすか香織って括りが基本だったから部長は浮いた駒状態に…。
しかも原作だと、視点キャラの久美子をはじめ、露骨に部員達から軽んじられてる感が伝わってきます。
まあ、久美子視点だと突然ヒステリックに絡んできて後はほとんど繋がりの無いキャラなので、「頼りないし、落ち込ませたらめんどくさい厄介な先輩」的な見られ方になるのも仕方ないかもなんですが。
原作は基本みんな名前で呼び合うのに、別パートでめんどくさい絡みしかなかったせいか、久美子達からの呼び方も「小笠原部長」と距離を感じさせる。
希美とかに至っては、「あすか先輩、香織先輩、"小笠原さん"」と露骨すぎる蔑ろっぷり。
久美子の呼称とリンクさせてるのか、地の文でも一人「小笠原」となぜか苗字で書かれてたりする。後藤先輩ですら「卓也」と下の名前表記なのに…。

そんな散々な扱いの小笠原さんでしたが、
アニメだと久美子の見ていないところでの苦労や葛藤がたくさん描かれたことで、
視聴者目線で凄く共感のできる、報われてほしくなる愛すべき晴香部長になりました。
完全オリジナルで香織との友情が紡がれ、3年トリオとしてあすかとの繋がりも強化されたりと人間関係面からも掘り下げが進み、
一大舞台だったバリサクソロのシーンも、
「あの頼りない部長にこんなファンキーな一面があるなんて…」くらいのノリだった原作よりも、
シナリオ的にも演出的にも断然カッコよく描かれてたりとか、1期2期通して主要キャラの一人として十分な存在感を発揮していたように思います。
全国大会後、軍曹が「おがさわらぁ〜! 頑張ったなー!」と抱擁するシーンで、
「そうだよなあ、部長が一番頑張ってたよなあ…」と感じ入ってしまうほど、応援したいと思わせる面では他の追随を許さず、
気づけば私の中では3年組で一番、
全体でも久美子麗奈・夏紀優子というキャッチーどころに混ざってお気に入りベスト5に入るほどのキャラになっていました。*9
いやもう、アニメは小笠原晴香部長のためにあったといっても過言じゃない。いや過言か。

中世古香織

努力家で実力よし、容姿よし、気配り上手で人望もよし。
それでいて、公開処刑覚悟で敗色濃厚の再オーディションに挑むみたいな熱さも兼ね備えている。
あらゆる面で作中一隙のない、眩しいパーフェクトマジ天使なんですが、
それ故に、欠点も含めて愛おしい他のキャラクターたちと比べるとちょっと苦手というか、入れ込みづらさがあるキャラでした。
ソロオーディションの散りざまとかは凄く好きだったんですけどね。

しかし、あすか退部騒動で彼女のあすかへの執着心とか独占欲見たいなものが見えてくるようになると、
ようやく隙ができてくれた感じがして、最終的には他のメインキャラ同様かなり感じ入ることの出来るキャラになっていましたね。
あと、原作の香織先輩はあすかへの傾倒がもっと過剰で、誰よりもレズっ気が強くてちょっとビビりました。

・斎藤葵

本編では、「まあこういう、受験優先で辞めちゃうポジションのキャラも必要だよなー」くらいの認識だったんですが、
退部後の葵とあすかの一コマを描いた短編「あの子には才能がある」が衝撃的すぎて…w
「かつて自分は天才だと思っていた。けれど本物の天才に出会ってしまった」という書き出しに始まり、
本物の天才・あすかの死体蹴り的な言葉に、葵と視点を重ねて読んでいたこっちまで大ショックを受けたまま、救いもなく終わる。
これを読んじゃうと、葵が晴香や香織と比較にならないほど強くあすかにコンプレックスを抱いてるのが分かるし、そうなるのも致し方ないなと納得しちゃう。
しかも、そんな葵とあすかがこの後もクラスメイト続けてるのか、とか考えるとこっちまで身が裂かれるような想いに…。
たぶん久美子よりも晴香よりも、誰よりも共感を呼びやすい、最もありふれた読者に近いキャラは彼女なんじゃないかと思いますね。
そして、そんな彼女がひたすらボコボコにされるこの短編の切れ味はホント原作随一で、
この話と、2巻クライマックスの優子説得→のぞみぞれ復縁のシーンとが、原作の最高傑作じゃないかと。
真っ当な感動シーンよりもエグみのあるシーンが強い辺り、原作者の持ち味はそういうところにあるってことかな。

・滝昇

細長くてモサモサした文化系イケメン眼鏡男子。
穏やかな口調だがど正論で毒を吐き、指導内容はひたすら合理的。
吹部が題材だからか、これまでのスポ根部活ものではあまりみなかったような斬新な指導者キャラで、
そんな滝先生が、リアリティのあるダラけた部を生まれ変わらせる流れが凄く楽しかった。
序盤の物語で、自分の心を一番掴んでいたのはたぶんこの人だったと思います。

そんな滝先生が、「亡き妻の夢を受け継いで…」みたいな誰よりベッタベタな王道エピソードを抱えているというギャップがまた面白い。
橋本先生や新山先生らとの、匂わす程度の大人のドラマもまた魅力的で、
橋本先生の「指導を頼まれたときは涙が出そうになった」みたいな台詞とか、ホントドラティックな関係性を想起させて凄く良かったです。
この想像にお任せしますなままにしておくのが美しいのだろうけれど、
もし久美子達が3年生になるまで物語が描かれたりしたら、麗奈絡みでもっと詳しく掘り下げらることもあるのでしょうか…。

・その他脇役部員達
アニメオリジナルのノンクレジット部員達の中から、印象的だったキャラをいくつかピックアップ。

まずはパーカッションパートリーダーのナックル先輩こと田邊名来
アダ名とか性格とか凄くキャラ立ってる人だったので、完全なアニオリキャラだと知った時はビックリでした。
脇役たちの描写がやや減った2期でも、フィーリングの合う橋本先生との師弟的なドラマとかあってホントいいキャラしてたわ。

パーカスパートは他にも、そのナックル先輩の世話焼き女房感ある3年の加山沙希とか、


演奏シーンで目立ってて可愛く実力者感もある1年の井上順菜・堺万紗子コンビとか良いキャラ多かったですね。
みんな最初からモチベーション良し雰囲気良しで、パート単位でも主役の低音・Tpに匹敵する魅力があったし、
パーカスパートにスポットを当てたエピソードとか作って欲しいなーと思うまでありますね。

パート単位だと、逆にエンジョイ勢筆頭として仲良く団結していたホルンパートとかも印象的。
リーダーの沢田樹里に「ずっとパート内で一番上手かったのであまり努力したことがない」みたいな設定があるらしく、
こういうパーリーの性格が、それぞれのパートの雰囲気にそのまま影響してるところあるんだろうなとか考えると面白い。

パーリー繋がりだと、コンサートマスターという役職を兼ねているらしく、

卒部会で晴香・あすか・香織と並んで重役席に座っていた鳥塚ヒロネさんとかも面白いポジションにいるなあと。
この鳥塚さんと、


あとはファゴット喜多村来南、ピッコロの雑賀頼子辺りの美人どころ、
それから前述のパーカス井上・堺あたりは、ビジュアル偏差値高いモブとしてよく騒がれていた記憶があります。

そして、個人的にブッチギリで気になっていたのがToの二年・加部友恵
ダブルハート髪飾りというビジュアル面でも結構目立つキャラなんですが、
何よりこの子、優子の相方的なポジションにいたり、チームもなかのリーダー的振る舞いしてたり、
オリジナルの脇役とは思えないくらい本編のシナリオに関わるような立ち位置にいるんですよね。
原作だと優子と行動をよく一緒にいるからか、部長優子を支える副部長候補としてみぞれの存在を後藤が思い浮かべるシーンがありましたが、
アニメだと優子と行動を一緒にしてるのはこの加部ちゃんの方が印象強いし、
ちょくちょく香織関連で暴走する優子を気遣ってるところとか見ても、この子の方がやはり適任に見えるよね。
もなかのリーダーを務め、後輩の葉月に慕われているような描写もあったりと、ホント重役候補として申し分無いだけの要素も兼ね備えてますし。
だけど所詮アニオリ脇役部員だから、そんなシナリオの重要部分に干渉できることもなく、
優子の一番大好きな友達枠はみぞれに、肩を並べる相棒枠は夏紀に取られちゃう。
希美に片思いするみぞれ←の保険の優子…←の保険ポジションみたいになっちゃってますよね。
そんな、誰より一見おいしいポジションだったり、でもそのせいで脇役故の切なさも際立ったりと、
いろんな意味で強く印象に残る、最も注目度の高いキャラだったわけです。

でも、原作で優子がみぞれとプールに行くシーンを加部ちゃんとのコンビに変更してたり、
2期になってもこの子と優子の関係性とかを無かったことにするつもりも無いみたいだったので、
仮にアニメで新体制の部がもっと描かれるようになったとき、
この子が香織ポジ…とまでは行かずとも、鳥塚ヒロネさんのような第4の女的ポジションにちゃっかり座っていても何ら不思議じゃないし、
そうしたら、語られないドラマを想起させて凄く素敵だろうなあと思います。

のんびり始めてダラダラ長文書いてたら、気づけば放送終了からもう2ヶ月も経っているというクソマイペース記事になっちゃってました。
もう終わってからそんなに経つけど、
こうして振り返っているとまだ熱とか喪失感とか、そういうもの残ってるなあと。
タイトル回収でこれ以上ないほど綺麗に締めて、原作だと久美子と秀一も結ばれて、
もう完全にスッキリ終わっちゃった形だけど、
でも、久美子が新体制で「新入生指導係」という、これまた如何にも新1年生達の問題に巻き込まれる予感しかしない役職に就いてたりとか、一応続編を作れそうな余地もあるんですよね。
蛇足になる気もするけれど、やっぱり新生北宇治吹部の物語を見てみたい感もある。

アニメの方だと、まだ立華編という弾が残っているけれど、
外伝的な話でどこまで売れるのかってのもあるし、
北宇治より人数いっぱいの部でしかもマーチングメインとか映像化大変そうだし、流石に厳しいかなあ。
一応、アニメで見られる可能性にかけてまだ原作を読まずに封印してるんだけど…w

TVアニメの続編をとまでは言わないから、せめて北宇治新体制の定期演奏会エピソード「冬色ラプソディー」を作ってほしいところ。
あの話、メイン級のみぞれだけじゃなく1〜3年の主要キャラ全員に見せ場を作れるお話だし、
作品の顔になる演奏シーンも申し分なく盛り込めるしで、
その後の1エピソードとして売り出すのにいろいろとピッタリなんですよね。
出来れば、本編に入れられなかった秀一との恋愛話とかも混ぜながら劇場版…せめてOVAとかでやってくれないかなあ。
…と、未練がましい話をしたところでひとまずおしまいとします。ではでは。

*1:どうでもいいけど、貴重な男性の主要キャラに「滝」がいるのに、同じく希少な男子部員に「滝野」さらに「瀧川」とかいう紛らわしい苗字を付けたのは謎すぎる。宇治はタキって苗字が多い地域だったりするんだろうか

*2:1年…久美子・葉月・緑輝・麗奈・秀一、2年…夏紀・優子・みぞれ・希美・後藤・梨子、3年…あすか・晴香・香織・葵

*3:原作・アニメ共に旧三年生に悪い部分を押し付けてるところはあるけど

*4:そもそも原作にチームもなかの設定は存在しないですしね。

*5:"描写されなかった"というだけで、北宇治栄光の背景でこういうドラマがあったこと自体が無かったことになったわけないでしょうが

*6:あすか問題で悩む久美子を麗奈が抱擁して励ますシーンとか、寝ぼけて久美子に甘えてるところを葉月に「ホント久美子のこと好きだよね」ってからかわれた麗奈が真っ赤になってるシーンとか

*7:そもそも原作だと二度目の告白はTpパートではなく久美子と一緒にいるときだったので、Tp勢に滝への好意はバレてないままのはず

*8:ちなみに、原作でイラストデザインが存在するのは久美子・麗奈・葉月・緑輝・秀一・あすか・晴香・みぞれ・希美の9人のはず。ただしみぞれだけはアニメでだいぶデザイン変わってる。

*9:ちなみに以下みぞれ、あすか、葉月、緑輝、希美…と続く