「響け! ユーフォニアム」を語り倒したい(前編)

昨年の今頃、「2015年一番熱かったコンテンツ」として漫画・ワールドトリガーの魅力について熱弁するクソ長い記事を書いていましたが、
その15年、ワートリに次ぐ2番目に熱かったコンテンツであり、
そして去る2016年、最ものめり込んでいたのが、昨年末まで2期が放送されていたアニメ「響け! ユーフォニアム」(以下ユーフォ)でした。

一昨年放送されていた1期の次点で既に年間ナンバーワンにハマったアニメだったし、
続編の製作が決まったときはガッツポーズを決めたものですが、
2期が始まってからはもう、「今日は次話のあらすじが公開される日で…今日は予告映像が公開される日で…そして今日はついに放送日!」みたいな感じで。
さらに、アニメの進行度合いと並行して原作小説も読み進めたりして、
毎週毎週生活サイクルの中で、常にユーフォのことを意識しながら日々を過ごしていたように思います。
まあそんなにたくさんアニメを見るわけでなく、話題どころをちょこちょこつまみ食いするくらいのにわかなんですが、
今まで見てきた中だと、こんだけ毎週各所情報を集めながら熱心に追ってきたのは、原作の次点で物凄く思い入れがあったアイマスのアニメくらい。
つまり作品単体の魅力でここまで夢中になったアニメって、初めてなんじゃないかなあというくらいでして。

ともあれそんなわけで、特に熱弁する相手もなく溜め込んできたここが良かったよ!的な話を、いろいろ書き連ねてみようかなと。
(※アニメ1期2期、および原作の後日談小説のネタバレも軽く含みます)

スポ根とリアリティ

私は熱血スポ根青春部活ものが大好物な人間で、
可愛い女の子がいっぱい出てくるのも、まあもちろん好きなので、
両方の要素を持った作品はけっこう好きなものが多い気がします。深夜アニメだとガルパンとか大正野球娘とか。
ユーフォもまず、その点で刺さる作品だったなあと。
放送開始前は、「とりあえず、"あの有名な京アニ"だしチェックしとくかー」って感じで、
題材が音楽、女の子4人ユニット推しでEDを歌わせる定番手法、あと制作会社繋がりもあって、良くも悪くも「けいおん」的な日常系のノリを想像していたのですが、

1話が始まって、麗奈の悔し涙や熱血青春ど真ん中のOP、久美子の丁寧な心情描写等で「お、これは割とガチな部活話をやるのでは…」と姿勢を正した記憶があります。
その後も実際、弱小部活のサクセスストーリーにレギュラー争い、エース(ソロ)争いとか、
これぞ熱血部活ものっていう王道展開が続いては、胸を熱くしたものです。

一方で、この作品がよくある熱血部活ものともまた一線を介していたのが、
そうした王道熱血展開の裏に、妙なリアリティがずっと付きまとっていたことでして。

特に印象的なのは、やはり序盤の「本気で全国を目指すか、楽しい思い出作りをするか」という二択展開でしょうか。
決定方法が多数決で、皆流されるままになんとなく「目指せ全国」に挙手して行く先が決まってしまう。
主人公久美子はどっちつかずで手を挙げられないまま、その流れに巻き込まれていく…というあの生々しい空気に、
「これはゆるい日常ものではないけれど、素直な熱血部活ものともまたひと味違うぞ…」と息を飲んだものです。
その後もいろいろ揉めつつ、滝先生を共通敵としてまとまったり、演奏の上達やサンフェスでの成功体験を経て乗せられていったりと、
だらけきっていた部が「全国を本気で目指す集団」として生まれ変わっていく過程に納得感があったし、
作中でも夏紀だったかが指摘していたように、その裏にはずっと「全体が前向きな方向に"流されている"」空気感が付きまとっていたのが興味深かったです。
順調な快進撃が繰り広げられていて、部員一人一人も脇役まで皆魅力的で好感の持てるキャラとして描かれているのに、
でもこの先、例えば顧問がやる気の無い人物に変わるとか大きな変化があったとき、
また部全体として、「ほどほどに楽しく思い出作りしよう」っていう方向に流さちゃうんじゃないかとも思えるのが、なんとも絶妙だなあと。
実際そうやって簡単に振り切れないからこそ、麗奈と香織どっちがソロ吹くべきか問題が広がり、皆簡単に結論を出せなかったという面もあるでしょうし。
純粋に気持ちいいサクセスストーリーに振り切らず、
そういう生々しさが終始付きまとっていたのは、「ユーフォはずっとドロドロしてて苦手」って言われたりする一因にもなっているんでしょうが、
個人的には、そういう"リアリティのある高校生たちの物語"だったからこそ、
彼女たちの成功体験や感動がダイレクトに共感できたし、そこがユーフォの大きな強みになっていたと思います。
リアリティと王道サクセス物語の絶妙なバランス配分・共存によって、かつてないほどキャラクター達と喜怒哀楽を共有できたことで、
過去の多くの作品を飛び越えて、自分の中でユーフォが歴代最高峰の部活ものに上り詰めていったのです。

吹奏楽という題材

これまで自分が見てきた部活ものには無かったユーフォ独自の魅力として、吹奏楽という題材によるものもあったように思います。
吹奏楽ものというと、唯一ジャンプで連載してた「SOUL CATCHER(S)」に触れた経験はあったんですが、
あれはカウンセリングバトル少年漫画みたいなちょっと特殊なノリだし、純粋に吹奏楽部ものとしてのいろんな要素を味わうのはユーフォが初めてだったんじゃないかと。


ユーフォで描かれる吹奏楽部の世界は、
汗だくになりながら膨大な練習をこなしたり、レギュラー争いやエース争いに相当する部内オーディションの競争要素であったり、先輩後輩の衝突であったりと、
流石「体育会系文化部」と言われるだけあって、
これまで読んできた多くのスポーツ系部活ものとも共通する、スポ根熱血作品としての王道的な楽しさがまず根底にありました。
しかしその一方でスポーツ、特に代表格である球技部活ものなどとの差異による新しい楽しさがその上に乗っかってきたんですよね。

まずは当たり前だけど闘わない、直接的な対戦相手の存在しない競技って側面でしょうか。
ユーフォでも進出枠を争う相手として強豪校の名前が挙がったりもするけれど、
対戦相手としてぶつかるわけでもなければ、目に見える形で得点を競うこともない。
あくまでその存在は「彼らより上をいけるかどうか」っていう抽象的なボーダーライン的なものにすぎず、
結局、先へ進むにはひたすら自分たちの演奏を高めるしかないよねと。
だから敵高との駆け引きとか、ライバルとの衝突によるドラマ性とかにはほとんどスポットが当たらず、
自分たちの技術を底上げしていくことばかりにほとんど終始していたのは、スポ根部活ものとしてはけっこう新鮮でした。
みぞれの覚醒みたいなキャラが大幅に成長するイベントが、ライバルとの戦いじゃなく自己の心境の変化から起こるのも、こういう競技の性質ならではな側面もあるのかな。
基本的に少年漫画脳なのでライバルとの熱い戦いみたいなのもやっぱり大好きなんですが、
ユーフォの、吹奏楽のこうした性質も、これまでにはなかった醍醐味があってなかなか乙なものでした。

それから、やっぱり大きいのは明確な勝敗がつけられない、採点競技ものっていうところでしょうか。
採点競技といっても、体操とかフィギュアとかスポーツ的なものはまだ「この演技が出来たら何点!」みたいなある程度の基準がまだあるけど、吹奏楽はそうもいかないみたいですしね。
明確な基準が無い芸術のフィールドで、スポ根じみた激しい競争をするっていう組み合わせから生まれるジレンマにいろんなドラマが詰まってたのもユーフォの楽しさでした。
コンクールメンバーやソロ奏者の争いも、そういう性質の競技だからこそよりドラマ性が深まっていたし、
「コンクールの評価なんかに振り回されてたら、音楽を楽しめなくなる」みたいなのがだらけた練習の言い訳として機能してたのとかも、吹奏楽部ならではみたいな感じがあって面白かったです。

そんな中でも特に印象的なのは、2期前半で繰り広げられていたみぞれ・優子・麗奈等各キャラのコンクールへの考え方をめぐる議論。
演奏以前の問題で切り捨てられる〜とか、あの辺の話は凄く興味深くて面白かったです。もっと掘り下げて欲しかったなあ。


コンクールの話にも共通する部分がありますが、ユーフォでは各キャラの「楽器を吹く理由」が千差万別に描かれていたのも楽しかったですね。
みんな「音楽が好き」っていう思いが根底にありつつ、
その中でもただ好きだからだけじゃなく、「特別になるため」という突き抜けた思いを持つ麗奈のような子がいたり、
あすかやみぞれみたいに、特殊な事情が大きく絡んでくる子もいたりとか。
そうしたいろんな動機が、どれが正しくてどれがダメとか決めつけられることもなく共存していて、
全体として全国を目標に掲げる中でも、どこまで本気で…っていう個々のモチベーションの差異をけっこう感じるような部分もある。
一人でも練習・演奏ができる競技性質も合わさってか、麗奈や久美子みたいに他よりも練習時間を費やしてどんどん自分を高めていく子達と、
「流されるまま全国に向けて燃え始めた」感の強い部員たちとではやっぱり入れ込み具合が違うよなあとか。
部活ものは話が進むにつれ、チームワークが向上して「皆の思いはひとつ!」みたいになっていくことが多いけど、
ユーフォは表向きは一つの目標に向けてまとまっていても、
あくまでみんな、動機や熱量がバラバラな子達の集合体なんだって感覚が最後まであって、そこが面白かったなあと。
だからこそそんな彼女たちの演奏が合わさり、個々のドラマが重なり合って、結果演奏という一つの作品を作り上げるという構図にも独特の趣があるのです。


あと、吹奏楽部独自の(?)文化として、部全体以外に「パート」という小さなコミュニティがあるのも面白い要素でした。
部全体や学年といった大きな括り以外に、
〇〇パートというもう一つ小さなコミュニティが存在することで人間関係が深まったり、
その中でのポジション付けによってキャラクターを掘り下げたりと、大きな集団だけではなかなか描きづらいところを上手くフォローしていたなあと。
特にメインストーリーにあまり絡まない脇役部員達なんかは、「どのパート所属・どの楽器で、どういう位置にいる子なのか」ってのがキャラ付けにおいてかなり重要になってましたしね。
雰囲気の良いパーカスパートで皆弄られつつ愛されてるハーレムナックル先輩とか、仲良しホルンパートの妹分みたいな感じだった瞳ララちゃんとか。
あと、久美子が同学年の中で葉月・緑輝(+麗奈)とだけ終始つるんでいるのがメタ的な事情だけじゃなく、
他のパートと練習サイクルが違うから、必然的に低音仲間で固まるようになっちゃうっていう理由付けとして機能してる面もあるかな。
同じ部活なのにあまりよく知らない人がいる…みたいなのとかも、あの大所帯かつパートごとに区切りが出来てたらあり得ないことじゃないかなあと思えるし。

群像劇と人間関係の機微

私はキャラクターの数だけそれぞれの物語がある、群像劇的な作品が好物なんですが、ユーフォもそういった点の魅力が刺さる作品だったなあと。
原作ではほぼ全て、アニメでも大半のシーンは主人公久美子の視点で描かれているですが、
その多くで久美子は視聴者と同調して物語を眺める傍観者・語り手的な立ち位置であり、
彼女の視点を通して、吹奏楽部員達がそれぞれ抱える様々なドラマが垣間見えてくるのが実に楽しかったです。
そこを意識させられたのが1期7話、葵先輩の退部をめぐる騒動のエピソード。

あの回では「現2年生一斉退部事件」という、久美子たちが入部する"前の話"にスポットが当たり、
それが今の2、3年の先輩部員たちに大きな影響を与えていることが判明しました。
混乱後の部長に就任することを避けたあすか、
そのあすかへのコンプレックスを抱えつつ、苦労しながら部をまとめていった晴香、
今でも事件への後悔が強く、"本気の部活"への変化に割り切れなかった葵。
それぞれの積み重ねてきた物語や心境が見えてくることで、作品全体のドラマが一気に厚みを増してくる。
この回からただの「面白い部活もの」だけじゃなく「一級品の青春群像劇」として、自分の中での作品の位置づけがワンランク上に化けた感がありますね。

ユーフォは久美子の物語としても友情や成長がきっちり描かれていて、一つの作品として成立しているのですが、
他のキャラクターたちにもそれぞれ、一人の主役として成立するような丁寧で充実した物語が用意されていたように思います。
例えば、才能豊かな風雲児で、大騒動の渦中に置かれエースの座を射止めた麗奈なんかはまさにもう一人の主人公って感じだし、
1期だと葉月なんかも、初心者からのスタートで音楽の喜びを知り、失恋や落選という挫折を経験しつつ、モナカメンバーとして頑張って、
最後に「もう一度選び直せても、たぶん吹奏楽やってると思います」という境地にたどり着くという一連の流れは、一人の主人公として十分成立するほど濃いものだったなあと。
あとは原作2巻・3巻のメインをそれぞれ担ったみぞれやあすか、
全編通して印象的な活躍をして、やる気の無い先輩から次期副部長まで躍進を遂げた夏紀なんかもかなりドラマチックな物語をたどっていましたね。

そんな中でも個人的に特に印象的だったのは、デカリボン先輩こと吉川優子。
2期になってから彼女の南中時代の苦い記憶が語られ、
そして「関西行きが決まったとき、中学から引きずってきたものからやっと解放された気がした」という心情が吐露されたとき、
1期最終話のあの瞬間、この子は香織先輩の件だけじゃなく、そんなドラマも背負っていたのかと震えるものがありました。
あすか先輩にしても、後々あのときみんなと違う方向を向いていたことが分かって、さらに話に深みが出てきたりしましたしね。
同じ瞬間、同じ体験をしていても想いはそれぞれ。みんな自分だけの物語を持っていて、思い思いの形でそれが昇華されている。
ある程度その思いの丈が伺い知れるメインキャラクターたちは言わずもがな、
あまり語られない脇役部員達にだってきっとそれぞれのドラマがあるはずで、実際それを感じ取れるような細かい描写も散りばめられていた。
そんな、60人超のドラマが同時並行していく北宇治高校吹奏楽部の青春群像劇は、
視点を変えて見返すたび、想像力を働かせるたびどんどん新しい発見があったりして充実さを増していく、とてつもなく高濃度の物語だったわけです。

また、群像劇の肝といえばキャラ同士が交わり、個々のドラマが重なり合うことでよりその味わいが増していくこと。
魅力的な群像劇は大抵キャラクター間の繋がりが充実しているものですが、ユーフォはまさにそういう作品だったなあと。

これもやっぱり、1期7話で3年生3人組(葵も含めれば4人)の複雑な関係模様が見えるようになってから、どんどん深みにハマっていった気がしますね。
話が進むにつれてどんどん新しいキャラ間の繋がりや感情が見えて、そのキャラクター性がより強固なものになっていく。
好例としては2年生の中心人物2人、優子と夏紀でしょうか。
この2人の間の喧嘩友達的な関係性(通称「なかよし川」)自体が久美子&麗奈に次ぐ鉄板コンビだったわけですが、
それだけに留まらず、同じ楽器の先輩・後輩、さらに同学年の面々に…と、
この2人はいろんなキャラクターとの関係性に恵まれていて、新しい繋がりが見えるたびどんどん魅力にキャラクターになっていきました。
2期では表の主役たる久美子・あすかに対してこの2人が裏の主役みたいな感じまでありましたね。そりゃ最終的に次世代の中心になるのも納得だわ。
全体的に2・3年生のキャラ達の方がドラマに深みと熱さを感じるのも、
彼女たちの方が空白の時間の積み重ねで人間関係が多様化・熟成されているのが大きいでしょうね。
1年生、特に葉月と緑輝の2人は人間関係の出発点が物語の開始時点からなのがやっぱり痛いわなあ…。

そして、キャラのつながりが豊富といっても友人・恋人・ライバル・師弟みたいな分かりやすい関係性だけじゃなくて、
ユーフォではいろいろ複雑な感情の矢印が飛び交っていたのが、非常にドラマチックかつ、それぞれのキャラの人間臭い魅力を高めていました。

印象的なのは、みぞれと希美の関係に代表されるような、
一方が相手に大きな感情を向けていて、もう一方はそうでもないという、お互いにとっての相手の存在の重さが不釣り合いな関係が多かったことでしょうか。
晴香や葵があすかに抱くコンプレックス。
香織があすかに、夏紀が希美に抱く憧れの感情。
優子の香織への敬慕、みぞれへの献身、希美への嫉妬。
あとは葉月や麗奈の片思い恋心なんかもそうかな。
(…こうして見ると、優子とあすか・希美の対極っぷりが切ないですね)
私はどっちかというと、お互いの存在価値がきっちり釣り合っているペアの方が見ていて素直に気持ちいいから好きなんですが、
ユーフォに関しては、この綺麗に繋がらない人間関係模様だからこそリアリティを醸し出し、キャラに深みを与えて、
そしてそんな彼女たちが交わり、時に思いが通じ合う瞬間のドラマ性を高めていたんじゃないかなあと。
普通の友達以上のものを感じる関係で、上手いこと釣り合いが取れていた関係というと、
後藤と梨子、夏紀と優子、久美子と麗奈、久美子とあすか、久美子と麻美子、あとは原作だと最終的にくっつくとこまでいく久美子と秀一辺りかしら。
この久美子の圧倒的充実っぷりよ……。

絵とか音とか演出とか

アニメの武器といえば、やっぱり音がつきイラストが動くことなわけですが、その辺はホント文句なしに高品質な作品でしたよね。

まずは吹奏楽という題材上、命といってもいい音楽。
主張しすぎず、寄り添うような劇伴BGMは自然体のドラマ的な作品の雰囲気作りに寄与していたし、
作品の顔の一つでもあるOP、ED曲は計4曲いずれも名曲揃い。
特に、突き抜けるような爽やかでキャッチーなメロディに一瞬で心を掴まれた1期OP「DREAM SOLISTER」、
別れと新しい始まりを明るく歌い上げ、大団円感漂う2期ED「ヴィヴァーチェ!」の2曲は大のお気に入りです。
そしてなんといっても、この作品の中核を担う劇中の吹奏楽曲。
ユーフォを「吹奏楽アニメ」としてきちんと楽しむことが出来たのは、
シチュエーションに合わせたこだわりの音作りによって、音でシナリオを語ることが出来ていたからでした。
象徴的なのは、1期3・4話の海兵隊の演奏でしょうか。
滝先生の指導前ver.は音がガタガタなど下手くそ演奏で、指導後ver.は劇的に改善されてちゃんと"合奏"になっている。
音楽的素養ゼロの自分でもちゃんとその違いが聞き取れるから、シナリオに置いてけぼりにされず気持ちよく楽しめていたわけです。
他にも麗奈と香織のソロの技量差とか、みぞれのオーボエに感情が宿る前後の違いとか。
おそらく素人でも分かるように多少オーバーに表現している部分もあるとは思うんだけど*1
そのおかげで、ちゃんと自分みたいな視聴者でもついていけたのでありがたいことこの上なしです。

…で、極めつけが作品の象徴ともいえるコンクール自由曲「三日月の舞」。
そのポイントは何といっても、この作品の演奏シーンのために作られたオリジナル楽曲だということでしょう。
作品に合わせた専用曲だからこそ、曲展開をシナリオとピンポイントで合わせられるわけです。
その破壊力を思い知ったのは、2期5話関西大会の演奏シーン、その中盤。
いかにもわかりやすい切り替え・盛り上がりどころである麗奈のトランペットソロに始まり、
クラリネット・パーカスパートと外部顧問2人の思い出写真ボム、
止めにみぞれのオーボエソロ→あすかのユーフォソロ。
そこから一転してテンポアップして、次に来るのが久美子因縁のあのフレーズ。
このあたりの濃厚すぎる怒涛のドラマ性の詰め込みっぷりは、まさに物語に合わせて作られた曲だからこそという感じで。
この楽曲なくして、ユーフォの演奏シーンがここまで素晴らしいものになることはなかっただろうなあと。
三日月の舞が吹奏楽曲としてどうなのか、何てことは素人の私にゃわかんないですが、
少なくとも「北宇治高校が演奏する楽曲」としては、これ以上のものはないほど至高の名曲だったのではないかと思います。
あと三日月と言えば面白いのが、府大会ver、関西大会ver、卒部会1,2年ver、さらにサントラ限定の府大会幻の香織ソロ版、全国銅賞verと、何と5パターンも音源が用意されていること。
卒部会verは3年抜けて薄くなっちゃったなあ…みたいにそれぞれにその場に合わせた味わいがあるし、
関西大会verは「北宇治史上最高の神がかった演奏」って設定だから収録にプロ奏者を交ぜて音圧を強化、
全国銅賞verはプロが抜けるけど、長く一緒にやってきた学生メンバーオンリーだからチームワークには分がある…みたいなこだわりは脱帽ものでした。

次に絵。
これはまあ、かの有名な京都アニメーションだけあって安定のハイクオリティでしたね。
背景は綺麗でキャラは可愛い。
おまけに表情がよく動くので、特に2期によくあった感情をぶつけるシーンが凄く映えてました。
あと、ユーフォならではの凄みとしてあのめんどくさそうな楽器をしっかり描き込んでたことと、
60名超いる部員をちゃんとみんなデザインして、その場その場で立ち位置等を決めてきちんと描き分けてたこと。
この2点があってこそのあの演奏シーンの楽しさだよなあと。

あとは演出面のおはなしも。
といっても私はアニメなんててきとーに有名どころを流し見てるだけだから、専門的なこととかは何も語れないんだけど、
ユーフォは観ていると時々ゾクッとするような、衝撃的に刺さる瞬間があって、
それは単に絵や音のクオリティだけじゃなく、その魅せ方・演出面が優れているからなんじゃないかなあと。
特に印象的なのは1期5話の「黄前さんらしいね」、1期8話の大吉山でのやり取り…というか久美子と麗奈の絡み全般。
あとは1期12話の上手くなりたい疾走とか、2期4話の優子がみぞれを引っ張り上げるとことか、2期10話の久美子があすか相手に反撃に転じるところとかかな。

主人公・黄前久美子の魅力

魅力的なキャラがたくさんいるユーフォでしたが、
その中で一番好きなキャラは…と言われたら、迷わず主人公・黄前久美子を選びます
そのくらい、久美子は突き抜けて心に残るもののある、特別なキャラクターになりました。

久美子のキャラクター性は、一言で言えば「普通の子、平凡な子」みたいなタイプに分類されるんでしょうが、
凡人主人公ものを自称する作品とかによくある気がする、実のところは何かしら特別な力なり精神性なりをもっていたりとか、
「このキャラは天才じゃない! 凡人ですよ!」って押し付けがましく主張してくるわざとらしさとかがない、
極めて自然体で「どこにでもいる普通の子」として描けていたのがなかなか見ない感じだったなあと。
・可愛いけど、地味な部類に分けられるのも頷ける程度のビジュアル。
・意外とそこそこ高い身長、まな板とか言われない程度に小さい胸。
・そこそこの学業成績。イマイチな運動神経。一般的な家庭環境。
・基本ローテンション気味だけど、コミカルなリアクションを見せてくれたり、内に秘めた情熱を覗かせることもある。
・やや大人びて見えるけど、子供じみた可愛い一面を見せることもある。
・表向きは周囲に流されがちだけど、その実冷静に周囲を客観視できていたり、ちゃんと自分の意志を持っていたりもする。
・二重人格と言うほど極端ではないけど、家の外ではそれなりにいい子として振舞う。でも時々ポロっと本音が漏れる。
・物語の開始当初は、部活に対してもユーフォニアムに対しても、続けてもいいし辞めてもいいかな…くらいの距離感。
いろんな要素がいい具合にバランスが取れていて、こういう子現実にいてもおかしくないな…というリアリティを築きあげていたように思います。
何より印象的なのが、周囲に対する久美子の態度とその声の演技

特に、家族やそれに準ずる存在である秀一に対する、あの自然体でそっけない喋り方はなかなか衝撃的でした。
アニメ作品、しかも深夜アニメの美少女主人公が、こんなに媚びた作りもの感の無い生々しい喋り方をするのか、と…w
声の調子を話す相手との距離感で使い分けてるのも、リアリティあって面白かったですね。
2期1話なんかは、みぞれや希美・葉月や緑輝・麗奈・母親や秀一…等々相手との距離感に応じてコロコロ変わる久美子の演技が楽しめて、まさにこれぞ黄前久美子の真骨頂って感じでした。
普段は声優の演技がどうとか全然気にしない私も、思わず久美子の演技すげー、おもしれーって思いながら見てましたもの。
久美子の特徴的な演技は久美子自体のキャラクター性を深めることはもちろん、
久美子が主人公、かつ視聴者目線の語り手ポジションであることから、作品全体の雰囲気作りにも大きく影響を与えていて。
ユーフォが「アニメだけどドラマっぽい」「中学生日記みたい」とか言われてたのも、久美子の演技に引っ張られていた部分が大きいんじゃないかなあと。

そんな"自然体で普通"な主人公久美子ですが、
やたらいろんなイベントに出くわし、その度他の部員達とコネクションを築いて本音を聞き出していく面なんかは"主人公補正"がかかっていると言えるかもしれません。
特に、平凡な子設定なのに、あすかや麗奈みたいな凄い人達にやたら一目置かれたりするのは、
「作者の自己投影〇ナニーだ!」なんて風に叩かれがちな展開と言えなくもないかも。
ただ、久美子があれだけ周囲の心を開かせる理由を主人公補正以外で考えるなら、
それは彼女の聞き手としての魅力、とりわけ共感性と客観性という点にあるんじゃないかなあと思います。

まずは共感性ですが、久美子は相手の立場に立って考え、親身になって話を聞くことが出来る子です。
そこに嘘をつくのが下手な性格も加わって、
こちらが真剣な意見をぶつければ、久美子も真剣に考え込んで答えを返してくれることが見て取れる。
そういう久美子だから、みんな快く自分の抱える想いを打ち明けてくれるんじゃないかなあと。
特に象徴的だったのが、久美子が聞き手・語り手役に徹していた2期前半の2年生(のぞみぞれ)問題。
あの話では、四者四様の事情を抱える南中カルテットから久美子が忙しなく話を聞いて回っていましたが、
それぞれの心情を慮って答えを返す、久美子の共感力の高さがいかんなく発揮されていたように思います。
希美の部活への想いを聞いたら「希美は部に戻るべきだ、協力してあげたい」と思うし、
さらに原作だと優子の話を聞いて香織がソロを吹くべきという考えに同調しそうになったり、
夏紀の話を聞いて彼女の不器用な振る舞いやいじらしさに目頭を熱くしたり…なんてところまでいってたりする。*2
流石にみぞれが楽器を吹く理由なんかは特殊すぎて共感とはいかなかったけれど、
それでもその特殊な考えを否定せず理解しようとするし、みぞれと希美のやり取りの裏に潜む残酷さに苦い思いを抱いたりもする。
夏紀以外はまだ親密度の浅かった二年生達からあれだけ真剣な言葉を引き出せたのも、久美子のこういう性質があってこそではないかなと。

一方で客観性。
ガンガン他人の心に近づいていきつつも、
どこかで一線を引いていて、少し離れたところから分析する客観的な視点も持ち合わせているのが久美子の特徴。
そこに持ち前の失言癖も加わって、会話の中で思わぬところからポロっと、核心をつくような言葉が漏れたりする。

実際作中でも麗奈やあすかが指摘していた点ですが、
そこが聞き手としての久美子のもう一つの大きな武器・魅力であり、麗奈やあすかから一目を置かれる理由でもあるんだろうなあと。
久美子の共感性を通して各キャラクター達の心情にぐっと近づき、
久美子の客観性を通して物事を離れたところから観察する。
黄前久美子という優れた聞き手のフィルターを通して見るからこそ作中のドラマがより楽しく映るのであり、
だからこそ、久美子というキャラクターはやはりこの作品において最重要人物なのでしょう。
久美子が涙を流すシーンがいずれも作中屈指の名シーン揃い*3なのも、
自然と感情揺さぶられるシチュエーションを共有できる、感情移入型主人公としての久美子の優秀さを示しているのではないかと。

あと、久美子はいろんな重大イベントに巻き込まれる天運を持ってはいても、
結果的にその解決を自らの力で成し遂げてしまうような万能性は持ち合わせていないことも、いい具合にバランスを取っているかなと。
のぞみぞれの問題は最終的に優子の献身と当事者同士の対話で収まり、久美子はそれを外から眺めるだけ。
あすかの問題ではあすかの復帰願望をつき動かすという大きな役割を果たしたけれど
「母親を説得して部に戻る」という根本的な問題解決は、結局当事者のあすか本人じゃないと成し得ない。
久美子はあくまで、一端の高校生にできる範囲の役割だけを果たしてるんですよね。
あそこで、周囲からの期待通り久美子があのあすか母を説得してみせたりなんかしたら……まあそれはそれで面白いかもしれないけれど、でもこの作品の面白さとしてはそうじゃないよなあとw
それに、のぞみぞれの問題はみぞれがとりあえず妥協点を見つけただけで、みぞれはこれからも希美との友情の重さの差に苦しむかもしれない。
あすかにしても、とても母親と完全和解したという感じではなく、「枷」と表現する母親との息苦しい関係は継続している。
その場では当事者が納得できるとりあえず幸せそうな形にたどり着けても、
結局根本的な問題の種は取り除かれていない、そう簡単には解決しないってのは久美子に限らず作品全体のバランス感覚としても凄くいい塩梅だなあと思います。

パッと見はわりと地味目な普通の子で。
冷めてるようで熱くもあって。
華々しく活躍する主役タイプではないけれど、いろんなところを支えてくれている必要不可欠な人材で。
いろんな人の心に寄り添える感受性の豊かさ・優しさと、
その裏で広く冷静に物事を捉えられる聡明さを持ち合わせている。
久美子というキャラクターの特徴・魅力はなかなか一言で言い表すのが難しくて、実際こんなにグダグダになっちゃってるんだけど、

そういえばそういうアレコレを、「ユーフォっぽい子」という一言でそれっぽくまとめあげたのは凄く上手かったなあと。
あのくだり実はアニメオリジナルなんだけど、
アニメ二期の脚本のベストファインプレーはここなんじゃないかというくらい大きな意義を持つフレーズだったんじゃないかと思います。

青春を後悔させる物語

音楽、青春、スポ根、百合…etc。
いろいろ代名詞となるような要素があるけれど、
個人的にはユーフォという作品の一番の肝は「自分の青春時代を後悔させる物語」であるということじゃないかなーと思ってます。
ユーフォを観ていると、「あぁ、自分も学生時代こうしてれば…」とか思わされる瞬間が何度もあったのが非常に印象的でした。
それは、物語全体を通して描かれていた「全力で取り組むことの尊さ」に胸を打たれたからでしょう。
もうちょっと言うと、

弱小低モチベーション部活からの生まれ変わりを描いた1期が、「全力で何かに打ち込むことの尊さ」で、

内面的な事情や人間関係の機微に注力した2期が、「全力で他人にぶつかっていくことの尊さ」でしょうか。
もちろん、キャラクター達が全力で何かに取り組む姿を美しく描いた作品なんて、そりゃもうたくさん見てきたはずですけど、
ユーフォのそれがこれまでになく刺さった理由は、この作品がとりわけ"全力"を際立たせる構造になっていたからではないかと。
まず一つは、全力投球が当たり前じゃない、絶対的正解じゃないっていう価値観が感じられたこと。
そして、実際その元でなんとなくの部活動を続けていた吹奏楽部員達が、全力投球の悦びを知り充足した青春を送るようになる物語構成。
何より、そういった経緯を辿るキャラクター達の心情描写や成功体験に、身近に感じられるリアリティがあったこと。
前述した主人公の久美子が、異性目線でも非常に感情移入しやすい主人公だったし、
周囲に流されて全国へと導かれていく大勢の脇役部員達もそう。
あすかや麗奈みたいな際立った存在、"特別"にはなれなくても、あの部員の中に混じって一緒に青春するくらいなら出来るんじゃないかと思わせる空気感があった。*4
身近に感じられる少年少女達がああいう風に変わっていったからこそ、自分の青春時代を自然と重ね合わせて見ざるを得なかったんだろうなあと。

終盤、心から「大好き」だと言い切れる吹奏楽に全力で打ち込み、
姉やあすかといった大切な人に、全力で思いをぶつけて素敵な人間関係を構築していた久美子。
その姿は、これまで見てきたどんなに強かったり、スーパースターだったり、モテモテだったりする主人公達よりも、眩しく羨ましく映りました
それはきっと、決して手を伸ばしても届かない、所詮フィクションだと割り切れる彼らの成功体験と違って、
久美子が手に入れたものは、もしかしたら自分も…と思わせるリアリティを纏っていたからでしょう。
中学高校と、惰性でダラダラと続けていた部活への取り組み方を後ろめたく思ったり、
いっそそれまでの人間関係をリセットしてでも、思い切ってもっと好きなことをやるべきだったんじゃないかと思い直したり、
そういえば人付き合いにしても、なあなあで過ごしてきたから薄っぺらい交友関係しかできなかったなあと後悔したり……。
とにかく、「あの時もっと、"全力"を尽くせば…」という後悔が、自然といっぱい浮かんできてしまう。そんな作品でした。
そうしたこれまでにない体験を味わったことが、ユーフォが自分の中で心に残る名作となった一大要因であり、
これこそが、吹奏楽部という題材を超えて万人に訴えかけられる、この作品の最大の武器なんじゃないかなあと。
もし学生時代にこの作品と出会っていたら、少なからず人生変わっていたんじゃないかという気もすれば、
逆に、満ち足りない青春時代を送った後の今だからこそ、ここまで身に染みて味わうことが出来たのかもなあ、とも。

主な要素についてはだいたいこんなところで語り終えたかなという感じなので、
後は各エピソードの感想でもざっと書き出してみようかなと。
・1期1話「ようこそハイスクール」

当時からよく出来た学園・部活ものの1話だなーと思って視聴意欲も向上したものだけれど、
まさかここまでハマる作品になるとは流石に思ってなかったので、今見返すといろいろ感慨深い。
桜舞う新しい青春の始まり的な雰囲気と、それを眺める久美子のやや冷めた性格のギャップ。
そんな久美子が、葉月の姿に自分の初心を重ね合わせて最終的に入部に傾くっていう締め方が好き。

・1期2話「よろしくユーフォニアム

何といっても目標を決める多数決のシーンが印象的。
あの何とも生々しく、煮え切らない空気が絶妙で。これはただのキラキラ美少女部活アニメではなさそうだぞと。
多数決で手を上げられなかった久美子に対して、
如何にもアニメ的お花畑キャラっぽいサファイアちゃんが鋭い指摘を投げてくるのとかもけっこう衝撃的だった。

あと、今見ると担当楽器を決めるシーンで、
あすかが久美子を「ユーフォが似合いそうな子」として勧誘してるところとか、
久美子(と秀一)が鞍替え先の楽器としてトロンボーンを選んでるところとか、いろいろドラマを感じて素敵。

・1期3話「はじめてアンサンブル」

「なんですか、これ」回。
合奏強行展開で「これ絶対マズいことになるやつだ…」と思いながら見ていたところに
あの素人耳にもガタガタな演奏が来て、そして案の定本性を見せた滝先生の容赦ない指摘が飛んでくる流れが痛快でした。
部がゴタゴタし始めてちょっと後ろ暗い雰囲気になってきたところで、
麗奈の「新世界より」の心地よい音色と熱い叫びが飛んできて、久美子同様爽やかな気持ちで視聴終了できるのも良かった。
あそこで久美子達と心情が重なったときは、「音楽」が題材のアニメとしての最初の楽しみを見出した瞬間だったかもしれません。

・1期4話「うたうよソルフェージュ

滝先生ショックで紛糾する部の様子、パートごとの温度差・格差とか、「リアリティのあるスポ根もの」としての面白さが詰まった回。
部全体の雰囲気が大きく変わった話だし、この1話が北宇治吹奏楽部最大の分岐点とも言えるのでは。
そして、その舵取りを担う滝先生のキャラクターが強烈な回だったなあと。
口調は穏やかだがド正論で時に容赦なく部員を追い詰め、でも認めるところはちゃんと認めて、
結果仮想敵として何となく部の団結力を高めて、上達という結果で部員達の意識改革に成功する。
鮮やかな展開と合わせて、いやーこの顧問いいキャラしてんなあと楽しんでました。
序盤はどのキャラクターよりも、滝先生が一番存在感あったんじゃないかって気すらしますね。

あとは久美子と麗奈のやり取りも相変わらず良い。
ぎこちない怒涛のまくし立てから「ご清聴ありがとうございました」が好きすぎて何度も見返してしまった。
ここは基本ローテンション気味な久美子らしからぬコミカルな表情変化が楽しいし、
麗奈と会話してるときの自然体ではいられない、非日常感が感じられていいなあと。

・1期5話「ただいまフェスティバル」

有名どころの曲に可愛い衣装のサンフェス演奏シーンは凄くキャッチーで、すぐに引き込まれました。
滝先生の目論見通りの、「あの北宇治がこんなに上手くなってる!?」的な展開も部活ものの王道っぽくて良い。

でも、その演奏シーン以上に心をつかまれたのが「黄前さんらしいね」のシーン。
ここの麗奈のスーパー美少女っぷりは作中一、
というかアニメ全体でも史上稀に見るレベルってくらいで、そりゃもう衝撃でしたよ。
作画が凄いとか演出が上手いとかいうのもあるんだろうけど、
それに加えて、久美子と視点を共有してミステリアス美少女麗奈のリアクションに翻弄されるシチュがまた破壊力に拍車をかけていると思う。

・1期6話「きらきらチューバ」
箸休め的な回だけど、
原作から外れてオリジナルなコミカルシーン多めで楽しいし、
葉月の初心者視点エピソードは未経験者的に感情移入もしやすいので好き。
こういう回が2期にも一つ欲しかったなーと思うけど、まあそんな余裕なかったわなあ…。

低音三人だけの妙にズッシリした響きのきらきら星は独特の趣深さがあるし、
経験者視点の思いやりや、葉月の知る"合奏の悦び"がダイレクトに伝わってきたりで凄く素敵なシーン。
低音1年トリオの関係は、愛憎入り乱れる2・3年に比べると普通の友達の枠を出てなくてちょっと物足りなく感じてたけど、
このシーンとか改めて見返すと「あら、凄く良い関係じゃないの」と。
やっぱり1年は久美子麗奈ペアが強すぎたから、あっちが台頭してきてから薄れちゃったのが痛かったか。

・1期7話「なきむしサクソフォン

上でも書いたけど、群像劇としてのユーフォの面白さがグッと花開いた、個人的にすごく思い入れの強い3年生回。
部長の「優しいなんて、他に褒めるところが無い人に言う台詞でしょ」はいろんな意味で名言ですね。ああ胸が痛い。
あのコンプレックスの爆発させ方は実に部長らしくて好きだし、後々の成長を考えるとまたいいものです。
あんな絡まれ方した久美子からしたらたまったもんじゃないけど…w

・1期8話「おまつりトライアングル」

おそらく世間的には、ユーフォが"化けた回"といえばやっぱりこっちが本命でしょうか。
久美子と麗奈の大吉山でのやり取りはとにかく反響凄かった記憶があるし、
私としても、葉月ちゃんには悪いけどやっぱりこの回はあの2人のシーンにつきるなあと。
切れ味鋭い台詞回し、美しい作画とBGM、耽美的な空気を作り上げる演出。そして2人きりの合奏で締める余韻。
異世界に迷い込んだようなあの独特の空気感、息を呑むような美しさは、百合云々とかそういうの抜きにして惚れ惚れしちゃいますね。
あと、ミステリアス美少女としてどんどん存在感を高めていた麗奈が、
実は「他の奴らと違う、特別な存在になりたい」という青臭い願望を持ったわりと等身大の高校生だったって素顔を見せたのも印象深い。
この先さらに滝先生への恋心とかが判明してどんどんその傾向が強くなっていくし、
久美子との関係抜きにしてもこの回は麗奈というキャラクターにとって大きなターニングポイントでした。

・1期9話「おねがいオーディション」

熱意を見せ始めた夏紀、香織のソロパートオーディションにかける想いと、そのよき理解者な晴香。
いろんなドラマが並行して進んでいくのが楽しいオーディション回。
ラストの結果発表は、落選して号泣する部員とかいて当時は残酷なシーンだなあと感じ入ってたけど、
今思うとなんだかんだ3年生は全員合格してるのでわりと甘いよね。
まあ、本来なら先輩を脅かすはずの2年が戦力うっすいからなー。
夏紀の落選と、香織のソロ落選という2つの波乱事項が生じて、さていったいどうなることやら…という不吉な引きがたまらんですね。

・1期10話「まっすぐトランペット」

オーディション結果の顛末回にして、
登場するたびじわじわと上げてきた夏紀先輩の株がここで爆発する記念回でもある。
久美子の中学時代のトラウマが描かれ、怯えた様子なところに、
あの素敵な気配りと言葉がけがあって、極めつけに作中はじめて久美子が涙を流すほどのリアクション。
そりゃもう沁みるし惚れるわなあ。個人的にも1期一番の感動シーンはここだったかも。

一方、夏紀が器の大きさを見せたのとは対照的に、案の定揉め始めたのが優子のトランペットパート。
このとき正反対な反響を受けた2人が、まさか2期終了後には並び立つほどの存在になるとはなあ。
「ウザイ!」とか「ライクじゃなくラブ」とか、麗奈が剥き出しの気持ちを見せるようになってきたことが久美子視点だと嬉しい。
ラストの香織先輩の挙手は、
結果を知ったあとだと「これ半ば負けることを覚悟で玉砕しにいったのかなあ」とか考えちゃったり、
たぶんここで始めて、「響け!ユーフォニアム」の原型となったBGM「重なる心」が流れてたんだなあとかいろいろ感慨深い。

・1期11話「おかえりオーディション」

オーディション前の久美子と麗奈のやり取りは、
2人の間にちょっと危険な相棒っぽい関係が出来上がっていて、ここまできたかあと嬉しくなった。
でも、「愛の告白」とかはちょっと狙いすぎてて引いちゃった面もあるかな…w

肝心のソロオーディションシーンは、何といっても脚本の流れが秀逸だなあと。
香織の「普通に上手い演奏」に和やかな拍手が送られた後、
麗奈の「抜群に上手い演奏」に圧倒されて静まり返る演奏。
どっちが上か、答えは分かりきっていても挙手できず周囲を伺う部員達。
…の中で、当初の立場を変わらず貫く優子の一途さと、
周りに埋もれずに自分の意思・麗奈との友情を貫けるようになった久美子の成長ぶりが際立つ展開。
そして最終的に、滝先生の「あなたが吹きますか?」という絶妙な渡し舟から、香織先輩が自ら潔く身を引くという顛末。
自らを納得させるために勝ち目の薄い戦いに臨んでの、あの美しい散り様はグッとくるものがありましたね。
ただその後の優子大号泣は、冷静な香織先輩の内面の代弁者としての意義は分かっていても、
ちょっと豪快すぎてなんか見てて気恥ずかしかったりもしたので、もうちょい静かに泣き崩れる方が好みだったかなあと。

・1期12話「わたしのユーフォニアム

後半最大のイベントと思われたオーディション話も終わり、*5
さて、今回はラストのコンクールへの繋ぎかな…と思ってたところにとんでもないものが飛んできたアニオリ回
ここに来てついに、これまで観測者のポジションに位置していた久美子自身の問題が取り上げられる。
しかも、部活動やユーフォニアムへの内なる情熱・愛情に目覚めるという、クライマックスにふさわしい展開。
挫折を味わいつつ、滝先生の言葉で希望を残し、ユーフォへの愛をまっすぐ語る読後感も気持ちいいし、
脚本だけじゃなく、「上手くなりたい」シーンのインパクトとか映像としても強烈。
何より、久美子が「いい味出してる語り手」から魅力的な主人公へと一皮剥ける分岐点に。
これまでのドラマをまとめあげるにふさわしい傑作回でした。
仮に続編2期の制作が決まらず1期限りで終わってしまったとしたら、
この回があると無いとじゃあ、作品全体の評価もかなり違ってきてただろうなあと。

・1期13話「さよならコンクール」
大会の朝のちょっとソワソワした空気感がちょっと懐かしみあって好き。
演奏シーンは当時凄いと思ったけど、完全版の関西大会を見たあとだとちょっと物足りなく感じちゃいますね。

演奏シーンは>映像そのもの以上に、そのドラマ性に感動した部分が当時大きかったと記憶してます。
ノローグで心情が語られる久美子以外にも、
ソロパート争いでいろいろあった麗奈・香織・優子、
いろいろ苦労してた部長、転向したてのトロンボーンに苦戦してた秀一、
落選してサポートメンバーに回った夏紀と葉月などなど、
いろんなキャラクターのドラマが、この演奏シーンの間に同時進行で消化されていって、この短時間の濃密さすげえなあと。
2期5話はこの面でもさらにパワーアップしてたから尚の事とんでもなかったですね。

12話のおかげもあって、「戦いはこれからだ!」的エンドながら綺麗にまとまりはしたけど、
希美やあすかの伏線とかもあってやっぱりまだ続きも見たくてしょうがないという終わり方で。
この先京アニが新作出すたびに「いいからはよユーフォ2期作ってくれや」とか呪ってしまうなーという感じだったので、無事続編制作決定してホントよかったです。

・1期14話(番外編)「かけだすモナカ」

サポート専念メンバー・チームもなか自体がアニメオリジナル設定なので、たぶん唯一の100%完全アニメオリジナル回*6
1期の裏主人公だと思ってる葉月の物語のクライマックスとしても素晴らしいし、
オーディション落選組全体を取り上げた回として、群像劇的にも更なる広がりをもたらす意義深いお話でした。
ここでスポット当たったから、もなかメンバーは脇役部員の中で比較的思い入れの強いキャラが多い気がしますね。
2期でももっかいこういうメイン外のところにスポット当てたお話作ってほしいなー。

・1期総括
「リアリティの漂うスポ根部活もの」の楽しさに、
7話以降から、群像劇としての楽しさも顔を出すようになってきて。
話が進むほどどんどん味わいを増していき、のめり込んでいった13+1話でした。

また、部全体のエピソード以外の大きな物語として、
全編通して久美子と麗奈の関係性がじっくり描かれていたのも大きなポイントでしょうか。
1話から徐々に距離を詰めていく様子が丁寧に描かれ、
伝説の大吉山シーンを挟んで、2人が相棒として心通わせオーディションに挑んでいく。
そして、麗奈から受けた影響をきっかけとして、12話で久美子自身のドラマに踏み込んでいく。
全体に散りばめられ、存在感も抜群だった2人のドラマは、
1期の物語の中心ど真ん中に位置していた、作品を象徴するエピソードだったなあと。
それこそ、実際これを中心とした総集編劇場版が出来ちゃうくらいだし。
葉月の初心者スタートからの成長、夏紀の変化、部長の気苦労、香織の情熱…etc。
各キャラのいろんなエピソードも印象深いのだけれど、
やっぱり1期で一番心に残った話というと、久美子と麗奈の関係性を中心としたエピソードが多くなってきますね。

・2期1話「まなつのファンファーレ」
実質2話分のボリュームになったのは、
13話×24分だけじゃ尺がどうしても足りないってのが一番なんだろうけど、
久美子麗奈コンビが話題を呼んだアニメだから、花火大会のシーンまで入れたかった的なところもあるのかしら。
希美の復帰懇願までで引くよりも、こっちの方がだいぶインパクト強いしねえ。

ボリューム大増+より演技が特徴的になってたこともあって、
久美子のいろんなキャラに対する、コロコロ変わる喋り方が堪能できる一話でした。
みぞれや優子と話してるときの困惑っぷり、
麗奈を滝先生や誘い文句の件でからかってるときの意地悪さと艶めかしさ、
母親相手に素直に甘えを見せてからの、コミカルな「なんてこと言うんだー!」
もう久美子を眺めてるだけで楽しくて、ホントいいキャラしてんなー改めて思い出さされた感じでしたね。

全体の話としても、部活ものの面白いツボをしっかり踏まえててやっぱ面白いなーと改めて…な話でした。
「あすかや香織がいたところに、麗奈や緑輝が加わって…」みたいな北宇治のポテンシャルを滝先生が語るシーンは、
部活もののバイブルスラムダンクの「赤木と木暮が支えてきた土台の上に…」のシーン的な楽しさがあったし、
次の大会を前にして、揉め事を起こして部を離れていた実力者希美が帰ってくる、という展開も、
これまたやはりスラダン三井に代表される部活物の超王道展開ですよ。
でもそこで、「当然希美は今更出場メンバーに加われずサポート専念だよね」って前提で話が進んでいくあたりとか、
今までの部活ものとちょっと違う、ユーフォの独自性も同時に味わえる展開でした。

あと、1期では全く絡みがなくED詐欺みたいな状態だった麗奈―葉月緑輝ラインがようやく繋がって、
北宇治カルテット」が並んで話している光景を見れたのが嬉しかったです。
2期ではこの4人が仲良しグループな感じのノリを見られるのかなーと、新しい始まりにウキウキしていたのですが、
結局最後までこのラインの「友達の友達」感は微妙に拭えないままだったし、
そもそも葉月と緑輝が2期ではメインエピソードから離れちゃって賑やかし要員だったのはちょっと残念。
まあ、葉月とかは1期でやり尽くした感があるからどうしても優先度下がっちゃうのは仕方ないけど。

・2期2話「とまどいフルート」

サービス水着回と見せかけて、あっという間にシリアスなお悩み相談に移るのがこの作品らしい。でも希美先輩のおっぱいは良かった。
というか水着よりも、その後の死んだ魚麗奈インパクト強すぎてなあ…w
あそこホント不意打ちすぎて、このアニメで唯一声出して笑ってしまった。

・2期3話「なやめるノクターン

家政婦久美子の怒涛の諜報回。壁に張り付いてたときのポンコツ感かわいい。
優子との真剣なオーディション話は、
話の内容自体も彼女たちが真剣に青春を部活に捧げているからこその葛藤で興味深いし、
近寄りがたい先輩だった優子と腹を割って話したことでぐっと距離が近づくカタルシスもあるしで凄く好きなシーンです。
その後、いろんなモヤモヤが相棒麗奈のストイック・ポジティブな発言でスッと晴れるのもいいよね。
続く4話の締めにしてもそうだし、いろんな考えに共感できる故に悩める久美子にとって、
麗奈のブレない真っ直ぐな精神性はホントいい影響与えてるんだろうなーというのが伝わってくる。
一方表向きは危うい麗奈を寄り添う久美子が支えてる構図だし、ちゃんと相互に影響し合ってるこの2人はやっぱ完成度高いコンビですわ。

あと、橋本先生が北宇治の課題として「表現力」というワードを出してきたのはなるほどなあと。
技術的成長を続けてきた部の次にクローズアップされる点として納得だし、
部員個々の事情・内面的な問題が中心だった二期の展開ともかみ合わせが良かった。
滝先生とは違う角度から、さらに北宇治を引っ張り上げる存在として二期の橋本先生はいい仕事してましたね。
性格的にも話を動かすのに使いやすいキャラだったし…w

・2期4話「めざめるオーボエ

2期前半(原作2巻部分)ドラマの決算回。
前話までの南中コンクール事件を巡る話が凄く面白かっただけに、
のぞみぞれ問題のオチが2人(主にみぞれ)の個人的な人間関係事情に収束しちゃったのは正直ちょっと残念でもあったけど、
「自分が相手にとってどのくらいの位置づけにあたる友達なのか」っていう着眼点はだれしにも少なからず思う節のある、
けれどあまりこれまで創作ものでは見かけなかったようなテーマで。
ぼっち気質のみぞれとスクールカースト最上位にいそうな希美のキャラクター性も相まって、これはこれでとても見応えのある展開でした。

でも、この回は何といっても優子に尽きるよなあと。
1話からじわじわと株を上げてきたのが、ここで一気に大爆発した感じでした。
飾らず真っ直ぐな思いをぶつける姿の気持ちよさ。
「中学から引きずってきたものから、やっと解放された気がした!」って言葉に詰まったスポ根ドラマ。
誰よりもみぞれのために一生懸命尽くして、けれど結局希美に持って行かれてしまう切なさ。
この回の優子はホント何から何までドラマチック過ぎて素敵すぎて。
これ以降のエピソードでは、すっかり優子を自然と目で追うようになってしまいました。

・2期5話「きせきのハーモニー」

「音楽・吹奏楽アニメ」としてのピーク回はやっぱりここでしょうか。
100回に1回あるかないかという、"奇跡のハーモニー"を引き当ててまさかの全国行きを決めるという展開に絵と音で説得力を持たせる、圧巻の演奏シーン。
映像作品そのものとしてもめちゃくちゃ見応えあるうえに、
部員一人一人にクローズアップしたときのドラマ性もまた、1期最終回よりもさらに強化されていて。
もうホントあの7分間、特に麗奈のソロからの後半戦はアニメ史に残る瞬間なんじゃないでしょうか…とか、にわかのくせに大きなことを言いたくなってしまうほどした。

・2期6話「あめふりコンダクター」
文化祭のシーンはいろんなキャラクターにスポット当たるし、
この後の重たい展開に向けてのいい箸休めにもなってて好き。
南中カルテットの微笑ましさも良いけど、久美子と秀一の貴重なラブコメシーンが一番好き。
アニメの久美子がラブコメしてるのホント可愛すぎるので、もっとこういうの見たかったなー。

「亡き恋人の想いを背負って…」という滝先生の明かされた事情は王道ど真ん中すぎてちょっとビックリしたけど、
王道展開そのものは大好きだし、滝先生の多くを見せぬ語らぬ性格がよりドラマ性を想起させて良かったです。
最大目標だった「全国行き」が叶って、この後消化試合になるんじゃないかっていうところで、
「全国でも金じゃなきゃいけない理由」をちゃんと持ってきてくれたのは上手かったですね。
冷静に考えれば実際作中でそれを把握してるのは久美子と麗奈しかいないんだけど、
久美子とすっかり目線を重ねて展開を追っていた自分としては、一緒にモチベーションを高めるに十分な展開でした。

・2期7話「えきびるコンサート」
ついにラスボスあすか先輩の抱える闇に焦点が当たり始めて、
いよいよ終盤戦……なんだけど、この回はなんといっても部長でしょう。
原作3巻で部長の見せ場演奏シーンがあるって話は聞いてたけど、ここまでやってくれるとは思わなんだ。
奇しくも1期と同じく7話目で部長のメイン回ってのがまた憎いですねえ。

部長のソロ抜きでも宝島の演奏シーンはすごく楽しくて、1期でいうサンフェスポジションにあたるコンクール以外でのキャッチーな演奏回でした。
この曲聴いたのたぶん初めてだったんだけど、なるほど吹奏楽の定番らしいのも頷ける楽しい曲だなあと。

・2期8話「かぜひきラプソディー」
黄前家の事情メインの繋ぎ回。
出番だいぶ削られててアレコレ言われてた秀一の貴重な見せ場(しかもアニオリ)があったのがちょっと嬉しかったというかホッとしたというか。
実際黄前姉妹の話は、「激しめの口喧嘩→秀一との会話で昔を思い出して姉が歩み寄る」という原作には無い展開を挟んだことでより厚みが出てたので、
ここのエピソードは凄く良かったなと思います。
そういやここで麗奈が立ち聞きしてたのが、麗奈の秀一評価アップ→久美子とくっつけるのを原作通りアシストするフラグかと思ってたけど、別に何もなかったですね…。

久美子がユーフォを始めたきっかけの話は実にらしくてお気に入りなんだけど、
1期序盤であった回想シーンと違う展開なのは引っかかりどころ。1期と原作2,3巻の制作が同時進行だったらしい故の悲劇か。
フォローするなら、1期の時点では久美子自身がユーフォを始めたきっかけをうろ覚えだった…とかが落としどころか。

・2期9話「ひびけ!ユーフォニアム
ここでまさかのタイトル回収回! …なのに、話のピークは次回でその繋ぎ話という不思議な回だったんだけど、
この回をこのタイトルにした真意が、最終回見た後で完全に腑に落ちるようになってるのが面白いですね。
(まあ、私はこの時点で"あの曲"の曲名のネタバレをすでに見てしまっていたんですが…)

もちろん、この回はこの回で緊張して待っただけのことはある傑作でした。
田中家の密室のあの緊張感の中で、
絶妙な押し引き加減であすかの話を気持ちを引き出していく、優れた聞き手としての久美子の凄みが印象的で。
特に、「嫌いじゃないって言いましたけど、嫌いなんですよね、お母さんのこと」のところとかもう、流石すぎて痺れましたね。
そんな久美子の凄みを体感した後で、「ユーフォっぽい子」という絶妙すぎる表現が飛んできて、
そして、あの嬉しいような切ないような、不思議な響きのユーフォニアムで締める。素敵な余韻残る幕引きでした。

・2期10話「ほうかごオブリガート
音楽アニメとしてのピークが5話なら、2期の青春ドラマ面としてのピークはここでしょうか。
引っ張ってきた姉とあすかの問題が同時にひとまず決着、
しかも、姉との問題で芽生えた気持ちを、そのままあすかにぶつけて決着っていう流れが気持いいですよね。

メインのあすかはもちろん、その前の黄前姉妹エピソードが予想外に素晴らしくて、
前半の時点で既に感極まっちゃってたのが印象深いです。
あの姉妹の話が個人的に凄く共感できるものがあって郷愁にかられていたところに、
久美子の「私も、寂しいよ…」という本音と涙がこぼれ落ちる。思わずこっちも涙ぐんでしまいました。

んで、それを踏まえた上でのvsあすかは、もう文句なしに名場面でしたね。
「みんなあすか先輩に戻ってきて欲しいはず」という、客観的な「みんなの理屈」が例のごとく理論武装あすかに論破された後、
お姉ちゃんの言葉がフラッシュバックして点火してから、
「私があすか先輩と吹きたい!」という個人的な感情、「自分の理屈」で一転攻勢に出る流れがカタルシス満点でした。
あの感情の溢れでるままに、一気にまくし立てるような喋り方がまた絶妙で……。
ホント2期の中核にこのエピソードをもってきたのも納得の感動シーンでした。
ただ、唯一勿体無かったのは、
「気になって近づくくせに〜」という傍観者としての久美子を揶揄するあすかの大事な台詞が、
アニメだとソロオーディション事件で一度久美子が踏み込んだ行動に出ていたから、原作ほど響かなかったなあ。
具体例として原作でその話を挙げていたのを削ってのぞみぞれ問題だけにした辺り、制作側もそこは理解の上だったんだろうけど。
4話の「優子は保険」発言もアニメの改変の影響で微妙にニュアンス伝わりづらくなっちゃってたし、あすか先輩はちょくちょく損してる節がありますね。

・2期11話「はつこいトランペット」
このタイミングで麗奈の恋話やるのは正直ちょっと消化試合感もあったんだけど、
制作サイドが凄い回って煽ってたし、1期はここであの12話が来たんだからもしかして…と期待したものの、
言うほど盛り上がるでも心動かされるでもなく、唯一期待値をちょっと下回っちゃたかなあという回でした。
確かに「麗奈が凄い回」ではあったんだけどね……w
アレコレ言われてた麗奈の墓参りシーンは正直ちょっと引いちゃったし、
それ以上に、久美子が滝先生の事情をベラベラ喋ってるみたいな伝わり方をしたままフォロー無かったのがあんまり後味良くなかった。
久美子は本音をうっかり漏らすことはあっても、他人の秘密や事情を軽はずみに喋る子ではないのになあ…。

でも、麗奈が「滝先生の奥さんって、どんな人だったんですか?」と玉砕質問に行くシーンなんかはグッときましたね。
容姿環境才能全てに恵まれていて、「逃げる奴が悪い」とか容赦なく強者の理屈を振りかざしてきた麗奈が、
いざ自分ではどうしようもないことで追い込まれたとき、それでも真っ向勝負を挑んでいけるというのは彼女の一貫性を示していてよかったです。
無神経にも見えるかもしれないけど、そこも含めてちゃんとキャラクターに芯が通ってたんじゃないかと。
原作だと奥さんの話は久美子一人が聞く形だったけど、
ここは麗奈に対して語って聞かせるという構図の方が、物語的にも必然性あって映えたと思いますし。

・2期12話「さいごのコンクール」
麗奈の告白シーンはインパクトあったし、落としどころとしてもいい塩梅で上手いオチの付け方だったなあと。
他にも秀一の精一杯のアプローチ、のぞみぞれのグータッチ、3年生トリオの晴れ晴れとした姿、
下級生への引き継ぎ、来年への決意、そして進藤パパからあすかへの伝言などなど、
キャラクターそれぞれのエピソードにどんどん決着がついていって、感動すると同時に「ああ、もう終わっちゃうんだなあ…」という寂しさが。
部長が泣き崩れてあすかにバトンタッチするシーンの魚住池上感好き。

んで、その大トリとしてもってきたのが黄前姉妹のエピソードってのがもう、最高でした。
10話で2人の切ないすれ違いに感じ入ってたから、ここでついに心通わせられたのは久美子と一緒に嬉しさが溢れ出して、ついにアニメで5年ぶりくらいに涙をボロボロ流してしまいました
原作だとここの締めはあすかとの「ユーフォ好き?」「はい」「ふふ、わたしも」という、シュートの久保さんとトシみたいなやり取りなんだけど、
ユーフォ・音楽の原点であるお姉ちゃんを持ってきたアニメの方が、より綺麗にまとまった感あって好きですね。

・2期13話「はるさきエピローグ」
"その後の物語"がたっぷり見たい私としては、エピローグにガッツリ1話尺割いて、
優子夏紀新体制の様子とか見せてくれたのはすごく嬉しかったしありがたかったです。
最終回の肝はもちろん原作のラストと同じ、卒業式後のあすかとの会話なんだけど、
アニメはそれだけじゃなく、卒部会とか門出のシーンとか、あすか以外の3年生達みんなにもスポットを当ててくれたのが良かったですね。
滝先生に叱られて泣いてたフルートの三原さんが感謝を告げてたり、メガネメカクレコンビの別れだったり、
脇役部員一人一人にもちゃんと物語性のある作品の良さを、最終回で存分に出してくれたのと。

あと、このタイミング、在校生が卒業生に送るというシチュエーションで、「三日月の舞」を持ってきたのは素晴らしかった。
元々、関西大会が奇跡の出来、全国は結果銅賞っていうシナリオの時点で12話に演奏シーンは必要ないと思ってたけど、
最終回の三日月を見て聴いて、尚更こっちに回して正解だったよなあと。
3年が抜けて音が薄くなってたり、一方で葉月や夏紀が参加してたり、このシチュならではの音が凄く楽しかったし感動的でした。
特に、あすかが吹いていたユーフォソロを久美子が引き継いでたのは、そう来るだろうと分かってても震えるものがありましたね。
ここがあったから、クライマックスの会話がより引き立っていたように感じます。

最後はタイトル回収からの表題曲エンディングというこれ以上無いほど綺麗な締めで、
こんだけハマったアニメだしもちろん続編はめちゃくちゃ見たいんだけど、
おかげでそういう寂しさや希望よりも先に、素直な感動に浸ることが出来た最高のエンディングでした。ありがとう!

・2期総括
2期は原作二巻分+一部短編集エピソードを消化するのに精一杯な感じで、
きっちりやりきってくれたのは凄くありがたい一方で、
久美子ベンチとかサボテンに話しかける久美子みたいな、1期でのアニオリの約束とかコミカルな描写とかが不足してたのは寂しくもあったかな。

2期の話は、1期に比べるとより個々の内面的な事情・人間ドラマを緻密に描くようになって、
部活動ものとしての面白さはやや1期に劣るかなという一方で、
丁寧な積み上げの後、キャラクター達が感情をぶつけるシーンのカタルシスは1期を超えるものがありました。
特に、4話の優子とみぞれのシーン、10話の久美子とあすかのシーンはもう台詞を暗唱できちゃうくらい何度も見返してしまうほど。

南中カルテットの話、麗奈と滝先生の話、黄前姉妹の話、久美子とあすかの話…の4つが2期の中心エピソードって感じでしたが、
この中で一番のお気に入りになったのは、意外にも当初一番ノーマークだった黄前姉妹の話でした。
ここの話をするとどうしても自分語りみたくなっちゃうんだけど、
格好良く見える姉と同じことをやりたがる幼少期の久美子とか、
昔はベタベタだったけど今は微妙に距離があったりとか、
あんたの方が親に贔屓されてる議論とか、性別は違ってもいろいろと自分の兄弟関係と絶妙に重なるところがあったんですよね。
そんな姉がありふれたレールから外れて、なんだか遠くにいってしまったような喪失感にかられる…みたいなのもまたそうで、
久美子が寂しいよと涙するのを見ると、何だかこっちも寂しく思えてきて、
年末に帰省して久々に兄と会った時、顔を見るのがちょっとこっ恥ずかしかったです。
最後に2人が大好きだと言い合うアニオリの結末が追加されたのは、
あの絶妙に生々しく切ない関係にちょっとフィクションくささが出てしまった感もあるんだけど、
でも、姉の件では特に久美子に入れ込んで見てたから、涙がこぼれるほど嬉しく救われた気持ちになったし、
フィクションの中くらい、こういう幸せな結末があってもいいよなーと。
吹奏楽の原点だった姉とのエピソードがこれだけ素晴らしいものになると、
久美子と吹奏楽ユーフォニアムの物語という、2期および作品全体通してのテーマも自分の中で気持ちよく消化されて、
最高の形で物語の完結を迎えられたように思います。

アニメの感想としてはまあこんなところですが、
放送時同時進行で読んでいた原作小説と、アニメとの違いとかいろいろ興味深いところがあったり、
その辺も含めて主要キャラ語りとかも書いてみたいので、
残りの話を後半の記事に持ち越そうかと思います。

続き:「響け! ユーフォニアム」を語り倒したい(後編)

*1:実際、初期の北宇治の演奏がいくらなんでも下手すぎないかとか、逆に南中のダッタン人とかはこのクオリティで中学レベルのダメ金にも届かないの? とかは素人でも何となく引っかかったりする

*2:アニメでは改変・省略の影響で優子や夏紀の語る話が変わっている都合に合わせて、久美子がそこまで入れ込む描写も無くなりましたが

*3:二度のコンクール結果発表、オデ後の夏紀のフォロー、上手くなりたい疾走、「(お姉ちゃんが去って)私もさびしいよ…」、あすかとコンクールで吹きたい、「お姉ちゃん大好き!」、あすかとの別れ

*4:吹奏楽をよく知らない素人のナメた意見かもしれませんが…w

*5:実際原作1巻ではソロオーディションがドラマ的ピークな感じで、その後すぐ府大会に移る

*6:6話、12話も概ねアニオリの回だけど、そちらは一部原作にあったシーンも挟まってたりする