シリーズの未来を切り開いた「逆転裁判5」に称賛と感謝を

逆転裁判5 - 3DS

逆転裁判5 - 3DS

先日発売された逆転裁判5についてのアレコレ。
ストーリーやキャラクターなどについてはネタバレ全開の別途記事で書くつもりなので、
ここではネタバレを含まないようにして書いていますが、一応格納しておきます。

最終話をクリアして、おなじみのEDスタッフロールが流れているとき、
僕の頭の中には達成感や充実感以上に、そこに名を刻まれた製作スタッフへの敬意と感謝が思い浮かんでいました。

「4」での世代交代失敗、及びそれに伴う様々なシリーズ全体への支障から、6年も時が止まってしまっていた逆裁シリーズ。
その間繋ぎとして出されたスピンオフ検事シリーズもまあ面白かったけれど、
でもやっぱり本当にやりたいのは、あの手に汗握る法廷での逆転劇でした。
だからずっと待ち望んでいた「逆転裁判5」の製作が発表されたときは飛び上がりそうなほど嬉しかったのですが、
しかし同時に、成歩堂、主役復活」の謳い文句には素直に喜べないモヤモヤ感を覚えました。
その理由については当時いろいろ書きましたが
成歩堂にもうこれ以上掘り下げる余地はあるのだろうか、とか。
やっぱりこのシリーズはいつまでも旧作キャラの人気にすがり続けるのか、とかって感じです。
成歩堂復活が多くのファンの要望に沿うものだと分かっていても、どうしてもそれを快く受け入れることができなかったのです。

しかしその心境に変化が生じたのが、
作品の情報が開示されていく中で、「4」の主人公王泥喜がプレイヤーキャラとして登場することが発表された時でした。
成歩堂を主役に戻すからといって、「4」を排除するつもりでは無い*1ことや、
成歩堂一人に頼りきった作品にはならなさそうなことが分かって、素直に期待がもてるようになってきたのです。
こうなったらもう、良いものが来ると信じて待とうと腹を括りました。

そして、いざ実際にプレイしてみた逆転裁判5は素晴らしい出来栄えでした。
何と言っても今作最大なプラス要因は、成歩堂王泥喜・心音の3視点によるトリプル主人公制だと思います。
成歩堂は後輩かつ弟子の2人を見守る成熟した大人としての貫録があり、
心音はデビュー仕立てのフレッシュさや、今までの主人公やヒロインに無い魅力があり、
中間の王泥喜は、弟子と先輩という2つの立場それぞれから個性が生まれ、「4」の時より遥かに素敵なキャラになりました。
もう掘り下げ甲斐の無い成歩堂一人でプレイするよりも、絶対にこの方が正解だったに違いないでしょう。

さらにもう一つが、「4」にしっかりけじめをつけてくれたこと。
成歩堂を弁護士&主役に戻し、
「4」でアイツはどうなってるんだと言われていたキャラを登場させて、1〜3キャラのファンを納得させる。
「4」の設定もしっかり守り、一部キャラを登場させることで、
負の遺産として無責任に葬ってしまわない責任感と、4も好きな人へのサービスも見せる。
けれど旧キャラを出張らせすぎず必要最小限の関与に止めて、
あくまで中心は成歩堂王泥喜・心音・夕神の4人という姿勢はくずさない。
そこにはできるだけ多くの逆裁ファンに納得してもらえたうえで、
一つの作品としても面白いものを作ろうとする製作陣からファンへのこの上無い「誠意」が感じられました。
裁判員制度が無かったことみたくなってたけど、あれはホントに誰も得しないと思うので仕方ないかなと)

もちろん、まるで不満の無い完璧な出来だったというわけではありません。
システム周りだと、探偵パートの「調べる」が特定場所でしか出来ないようになったことは残念すぎたし、
やっぱりテキストの魅力はタクシューのものには及ばないなぁと思ってしまいます。
シナリオ全体の出来も、
最大公約数のファンに配慮しつつ綺麗にまとまった優等生的な出来ではありますが、
1〜3の熱さや、検事2の完成度には及ばないかなぁというように感じました。
「5」は単体の作品としては正直なところ、
1〜3よりはやや下で、検事2とは同等かわずかに下ってのが僕の評価です。

しかしそれでも、「4」に折り合いをつけつつ、
一つの作品として「逆転裁判」の名に恥じないものを作らなければいけないという厳しい状況下の中で、
これだけの出来ならば、合格点をあげるにはもう十分すぎるというものです。
そして、この状況下でこれだけの物が作れたからこそ、制約が無ければもっともっといいものを作れるだけの力があると思う。
だからもし「次」があるならば、今度こそはキャラクターを一新して、新しい逆転裁判を作っていってほしい
「5」をプレイして、やはりもう成歩堂や御剣には掘り下げ甲斐が無くて、
これ以上彼らを引っ張り続けていたら、永遠に1〜3を超えられないんじゃないかと改めて痛感したのです。
今作が面白かったのも王泥喜や心音の成長物語があったからであり、
操作回数的には成歩堂がメインなものの、シナリオ的には他2人の方が主役然としていましたしね。
トリプル主人公制を続けたり、王泥喜や心音を新主人公にするってのも考えられますが、
それにしたってきっといつかは限界が来るだろうし、
今のメンツを引きづる以上は、やっぱり旧作からはいつまでも逃れられないんじゃないかな。
例えキャラクターが変わったとしても、
遊び心満載な名前とアクションのキャラクター、
細かい整合性よりも、とにかくインパクト重視で構成される事件・シナリオ。
そして、法廷で繰り広げられる興奮と驚愕、感動に満ちた逆転劇。
それらの「逆裁らしさ」という武器があれば、きっと今まで通り面白い作品になれるはずだと信じています。
「5」が素晴らしかったからこそ、次こそは全く新しい「逆転裁判」が見てみたい。それが今の僕の思いです。

まあ今後次があるのか、あるとして誰が主役のどういう作品になるのかはひとまず置いといて。
ゲームクリアの後、「5」の評判をいろいろ調べてみると、
絶賛一色とはいかず、「1〜3には及ばない」「期待ハズレ」などという声もやはりありましたが、
けれど、「4」のときよりははるかに歓迎的なムードであるように感じました。
もしこの調子で「6」を作っても、きっとコンテンツが続いていけるくらいの数のファンはついてきてくれるんじゃないかなと。
その光景を見た時、6年間止まっていた逆転裁判の時間は再び動きだしたのだと確信できました。
それは僕にとってこの6年間ずっとずっと待ち望んでいたことで、もう本当に嬉しくて嬉しくて……。
過去を背負ったうえでシリーズの未来を切り開いた「逆転裁判5」には、
製作者からシリーズとファンへの愛と誠意、そしてプロフェッショナルとしての仕事ぶりがありました。
だから僕は、そんな彼らに対して惜しみない称賛と感謝を贈りたいのです。

*1:まあ「成歩堂の養女」という設定のみぬきなどは出ないと不自然すぎるので当然かもしれませんが